「すごく好みの作品」アフター・ヤン Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
すごく好みの作品
めちゃくちゃ好みの作品だった。
部屋の構図、人物の動き、小津ショット。静謐感の中に完璧主義の狂気が孕んでいる。
〝アジア的なもの〟というと、ある種のつくりもののような位置づけになっていることが多いが、本作は老荘思想、無為自然、有と無、食文化、小津的家族の在り方など、〝アジア人が育んできた文化〟そのものが散りばめられていた。接木や茶葉や蝶のエピソードも好き。
私自身がアジアらしさについて思いを巡らせたときに広がる世界観そのものだった。
人間は、自然の中で一つの存在として、宇宙と調和して生かされている。人間がつくりあげた技術も、この道(タオ)の原理原則から逸脱することはできないのだとすると、テクノもクローンも自然の摂理だ。
そして、過去の失われたものを検証するには、曖昧な人間の記憶よりも〝今ここ〟を記録するテクノの記憶のほうが無為自然の境地に近づきやすいのかもしれない。写真、水、鏡がそのことを象徴していた。
時空を超えたメモリーボックスのビジュアルが、まるでヤンの意識がタオに漂っているようだった。あらゆる境界線を越えた愛のような。
I wanna be 風やハーモニー。
ヤンの純粋な記憶を辿りながら、私はヤンはこのまま宇宙とひとつになりたくて機能停止したんじゃないかなと想像した。
ラスト。遅ればせながらやっと両親も、〝テクノも家族なんだ〟と気づく。大人の人間は遅れている。
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