「ル・カレ的な人間味あふれるスパイ物語」クーリエ 最高機密の運び屋 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ル・カレ的な人間味あふれるスパイ物語
007のような武闘派とは違い、実際のリアルなスパイは無闇に戦わないし、輝かないし、むしろ人の印象に残らないような外見の持ち主でなければならないことは、例えばル・カレを代表とするスパイ小説からも明らかだ。本作は実話ベースなだけあって、伝統的なリアルスパイの佇まいや雰囲気、さらにはキューバ危機を背景とする国際情勢までもが緊迫した手触りを作り出す。だが、肝となるのはカンバーバッチ演じる主人公の人となりだろう。軍や諜報部上がりの生粋スパイではなく、元々は単なるビジネスマン。それゆえプロフェッショナルに徹しきれない”ブレ”が彼を窮地に陥れ、なおかつ、そこで際立つなけなしの人間性こそが本作の味わいに深みを与える。決して派手ではないものの、二国間の往復や、時に家庭内の風景なども織り交ぜながら上質な人間模様を紡ぐ手腕は高く評価したい。カンバーバッチの演技の底知れなさにも思わず感嘆のため息がこぼれる作品だ。
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