「【フランスにとって、オリジナル・タイトル「レジスタンス」の持つ意味】」沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【フランスにとって、オリジナル・タイトル「レジスタンス」の持つ意味】
「パントマイムは、そこに蜜柑がないことを忘れさせること」
映画「バーニング」の原作・村上春樹の「納屋を焼く」の冒頭の、”彼女”が話す一節だ。
僕達は、この作品に描かれている悲劇を決して忘れないために、仮にパントマイムでなくても「(今そこになくても)危機があるように演じてみせること」は、とても重要なのはことだと思うし、それは、「”(危機が)ない”ことを忘れさせる」のでも良いと思う。
それほど世界は危うい。
ユダヤ人が匿われて助かったという例は実は多くはない。
僕の知っている限りでは、イタリアのローマの医師たちと、カトリック協会が協力して、ありもしない感染症をでっち上げ、隔離されている人(ユダヤ人)は、感染症に感染しているのであって、人々に伝染するかもしれないと言い張り、実にローマに住む80%のユダヤ人が収容所送りを免れて助かったとされている。
実は、ナチスに対して煮え切らない態度を続けたバチカンに対して失望した故の行動だったのだ。
この作品でも描かれているが、ナチスは巧妙に密告者を募り、匿われているユダヤ人を炙り出し、収容所に送ろうとする。
そのため、助かったユダヤ人の多くは、匿われたのではなく、ナチスの支配地域から逃亡できた人たちで、大規模で、シンドラーや杉原千畝など協力者がいたものは映画化されているし、善良な個人がいたことを伺わせるのは「家に帰ろう」だろうか。
この作品のオリジナル・タイトルは「レジスタンス」だ。
(以下ネタバレ)
ナチスに対して抵抗を続けるフランス人の抵抗組織、レジスタンスに身を投じるマルセル達。
しかし、脅迫や過酷な拷問、或いは愛する人に対する拷問の末にナチスの協力者に仕立てあげられる人々。
協力者に仕立てあげられた後、復讐心を募らせるエマに対して、最大のレジスタンスは何かと問いかけるマルセル。
多くの子供は希望そのものだ。
この作品の物語の示唆するものは何だろうか。
確かに、この逃亡劇を通じて、冒頭に書いたように、危機を創造して考え続けることはそうだろう。
同時に、“レジスタンス”は、フランス人にとって、かなり大きな意味を持つ言葉であることは忘れてはならないことだと思う。
過酷な状況にあっても、命を投げ出してでも抵抗を続けた人々。
戦後、フランスでは、密告者は許さないという風潮が広がったことがある。
しかし、戦後の復興を達成するためには、フランス国民の団結こそ必要として、シャルル・ドゴールは、フランス国民全てがレジスタンスではなかったのかと国民に対して説いて融和を図った。
受け入れることにわだかまりはあったとしても、ナチスによる苛烈な脅迫や拷問を考えると、裏切りたくて裏切ったのではないのだと説いたのだ。
レジスタンスに身を投じたユダヤ人のエマが口を割ってしまったことは象徴的だ。ユダヤ人であり、レジスタンスであり、そして、密告者になってしまったからだ。
そして、フランスは融和を選択する。
この作品は、マルセル達に連れられたユダヤ人の子供達の逃亡劇を見せると同時に、密告をせざるを得ない状況に追い込まれた人々も含めて、フランスがどう戦い、どう団結したのか、考えさせられる作品になっているのだ。
それは、今、人種主義を背景にした分断を図ろうとする勢力に対する強いメッセージでもあるのだろう。
それにしても、ナチスのベネルクス3国、フランスへの侵攻は電撃的だったのだなと改めて感じる。
当時、英仏政府や軍は、ナチスの興味は、ポーランドや東欧、そしてソ連に向いているとの甘い見通しで、タカを括っていたため、対応が遅れたとされている。
ただ、こうした人種主義思想の連中には合理性などないのだから、そういう意味では、危機の創造はやっぱり大切だななんて考えたりもした。
〉戦後日本はアメリカ一辺倒だったが
〉ヨーロッパに習うこと必要
ワンコさんお返事ありがとうございました。
幾世紀も戦争を繰り返してきたヨーロッパ各国がついには「EU」を創り、「EU」がノーベル平和賞を受けたことは、欧州の人たちにとっては感慨深かったことでしょうね。