「当事者だが、あまり刺さらなかった」彼女が好きなものは ももたさんの映画レビュー(感想・評価)
当事者だが、あまり刺さらなかった
同性愛者とそれを取り巻く人々の葛藤に真正面から取り組んでいる点は良かったと思う。私自身ゲイだが、学生時代の自分と重ね、主人公の悩みにある程度共感することができた。
しかし、なんとなく感動しきれなかったので、思いつく限り理由を挙げてみる。
①思春期のゲイに特有の悩みがあるのは確かだが、ずっと悩んでいるわけではない。
ストレートの男友達との間に壁を感じることはあるが、常に感じているわけではない。
共通する趣味の話をすれば楽しいし、同じ学校に通っていれば、イベントの話、勉強の話、最近流行っているものの話など、性的指向が違ったとしても共通の話題はたくさんある。
映画である以上、「悩める存在」としてデフォルメするのはある程度仕方ないと思うが、(あの映画の中でも言及されていたように)主人公の彼はあくまで同性愛者の一例に過ぎない。ゲイだって、ちゃんと学生生活を楽しんでいる人は沢山いるはずだ。
②ドラマ版の要素をほぼ踏襲しているが、展開が早い。
主人公とヒロインが付き合い始めるまでの過程や、ゲイバレ後の友人の動揺など、雑とは言わない(むしろ短時間でまとまっている)が、どうしても展開が早いと感じてしまった。主人公を取り巻く人々がどのように考え、身近なゲイの存在を受け容れていったのか、より明確に描いてくれるとよかったと思う。
③主人公の悩みが思春期然としていて、大人にも刺さるのか疑問が残った。
学校という狭い世界で、気が合っても合わなくで毎日同年代の人々と顔を合わせなければいけない思春期のゲイが、人間関係に思い悩むのは理解できる。(実際、自分も悩んだ)
しかし、大人になれば、良い意味でも悪い意味でも、周囲の人は「他人」じゃないだろうか。生まれ育った環境、価値観、経済状況がそれぞれ異なるのは当たり前で、その上で誰かと仲良くなったり、人間関係を作っていく。共通する部分があれば当然嬉しいが、違う部分があっても、いちいち目くじらを立てることはない。友達も、恋人も、まずは「他人」という前提を置いた上で、関係を作るものだと思う。そう考えれば、性的指向の違いは数ある違いの一つに過ぎない。その違いがどうしても気になるなら、その人とは友達にならなければいいし、気にならないなら、仲良くなればいい。
主人公は、自分と周囲の人間の違いをかなり大きく捉えているが、大人になれば、数ある違いの一つに過ぎないと気づく。
気付いていない主人公は全く悪くないし、自分も学生時代は悩んだので共感する部分は大きい。しかしそれは、「思春期の悩み」でしかない。大人になったゲイは、おそらくこの映画で描かれた悩みを既に乗り越えた人が一定数いるのではないだろうか。
冒頭でも言ったように、同性愛者やその周囲の人々の悩みに真正面から向き合った点は良かったと思う。しかし、この映画も、ゲイの全てを描けているわけではないし、現実を完璧に反映しているわけではない。
この映画を鑑賞した人が、映画だけで同性愛者の実態を理解した気になるのではなく、映画で描ききれていない「摩擦」や「空気抵抗」に目を向けていただければと思っている。