「アラビア語では、「自由」と「許し」は同じ言葉だ。」モーリタニアン 黒塗りの記録 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
アラビア語では、「自由」と「許し」は同じ言葉だ。
モーリタリアン=モーリタリア人。不勉強ながら、モーリタリアと聞いて、何処にある国かピンとこなかった。なるほど北西アフリカに位置し、モロッコ・アルジェリア・マリ・セネガルに囲まれた領土、旧フランス植民地、アラブ系民族か。
そのモーリタリア人であるモハメドゥが、9.11テロの関与を疑われてアメリカに拘束され、キューバのグランタナモ基地(かの悪名高き)で過酷な拷問を受けた実話をもとにした構成。実に、14年2か月間の拘留というのだから、おそらくどれほど想像しても、現代の平和な日本で暮らしている自分には想像しきれないのだろうな。
彼を死刑囚として立件する終着地点を確定したうえで進める米国家側と、人権擁護の弁護側。国家側は不都合な資料は一切開示する姿勢は見せず、どうやってもゴリ押しして犯人に仕立てようと躍起。次の9.11が起きる前に決着をみせたいのはわかる。が、性急で強引な対処が、なにかを信じている人間には無意味なことがどうしてわからないんだろう。だから、本当の犯罪者の偽りの言葉なのか、無実のモハメドゥの切実な言葉なのか、どっちも同じにしか聞こえなくなる。
映画の中でもいう。「9.11は許しがたい。犯人はその償いはしなければいけない。だが、その報復を受けるものが誰でもいいわけではない」と。そこは本来、正義の国を標榜するアメリカという国家の専売特許じゃないのかよ。
当初、通訳が必要だったモハメドゥが、いつしか英語が堪能になっている。それも開放をあきらめない彼の不屈の努力の賜物。嬉しそうに歌うのがボブ・ディランの歌っていうのも、いいなあ。
その歌『the man in me』の冒頭の歌詞は"俺の中にいる男は、どんなことでもやってのける"と叫ぶ。まさに、モハメドゥの心境そのものだった。