「やりきれないの一言」プロミシング・ヤング・ウーマン ほりもぐさんの映画レビュー(感想・評価)
やりきれないの一言
ひとつの性暴力事件により、優秀で将来を約束された二人の女性の人生が狂わされます。
加害者は何もなかったようにのうのうと人生を謳歌し、被害者は精神を病み自殺や自暴自棄の生活を送る。
この理不尽さに怒りを感じますが、だからといってどうすることもできず、闇落ちしていく主人公を自分も傍観しているしかないことにモヤモヤします。
結論から言うと、やはり亡くなってしまったら、終わりじゃないか…という気がするのです。
これで、加害者アルが二人を殺したとみなされ、死刑にでもなってくれたらまだ溜飲が下がるというものですが、そんなはずもなく、彼らは今後も正当防衛を主張したり、自分たちの都合のいいように話を作る可能性は大いにあります。
それも何も、見届けることができないカサンドラ。
彼女はこれで満足だったのか…いや本当は苦しみのあまり死にたかったのではないか、そんなことを考えました。
アルを医師から殺人者に転落させたのですから、たしかに復讐はある程度達成できたのかもしれません。しかし本当に自分の命をかけてまでやらなくてはいけなかったのでしょうか。
実際、彼女の心はもう壊れてしまっていたのかもしれません。
泥酔のふりをして体目当てに近づいてくる男性に鉄槌を下す。復讐とはいえ、どんな人間が声をかけてくるか分からない、とても危険な行為です。
初めはその行動に不自然さを感じましたが、最後まで見ると、カサンドラは始めから自分を大切にする気はなく、捨て身の行動だったのだと分かり、切なさが倍増しました。
彼女ははじめから、死んでもいいと思って復讐を続けていたのです。
もしかすると、アルの手錠が外れるような細工をして、殺害を誘ったのかもしれません。
ものすごく頭のいい彼女が、こんなミスをするとは思えないからです。
ライアンの存在が彼女に希望と絶望の両方を与えたのも興味深い展開でした。
ライアンに対しては、はじめアルたちの情報を得るために親しくなったかのように見えました。
しかし、実際に惹かれるようになってしまい、親友の事件現場に彼がいたことを知って大きなショックを受ける。
復讐と恋愛の間で揺れていた部分が大きく崩れ、一気に破滅へ向かっていったのでしょう。
親友を自殺に追いやったアルには、社会的な死をもって償わせるのが、カサンドラにとっては精一杯だったのかもしれません。
過去を捨て元気になりたいと彼女自身が望んでいたのなら、カウンセリングに通うなり、両親に相談するなり、とっくに何かの手を打っていたでしょう。
あえて復讐するという苦しい道を選び、破滅へと向かったカサンドラの選択が、避けがたいものであったとはいえ、それでも命をかけてまでひとりで戦わなくてはいけなかったのだろうかと考えると、本当にやるせない気持ちになりました。
何が最良の選択だったのか分からないし、誰も幸せにはならない、そんな鑑賞後感の重苦しい話でした。
2021年の映画であっても、ここに出てくる男性たちの言動が類型的すぎて、本当に現代の話かと驚いたりもしました。
性暴力の話は、気が重くなりますね。
スッキリはしませんでしたが、エメラルド・フェネルはこれが長編デビュー作ということで、すばらしい才能だと思いました。
この後『バービー』『Saltburn』と注目作を送り出しているので、今後も注目したいと思います。
変な映画が好きな方にはソルトバーンをおすすめします(•ө•)♡アレハイイ…