「何一つ男にはわからない」プロミシング・ヤング・ウーマン mintelさんの映画レビュー(感想・評価)
何一つ男にはわからない
男性の友人と見に行き、はっとしたのが彼の「ニーナの動画が実際に観客には見れないので、アルたちがやったことの酷さの程度がわからない」という言葉。
現実でも、女子中学生がレイプされれば同情されても、酔わされたセックスワーカーがレイプされたら、そんな仕事をしているから、隙があったから、仕事でしてることなのに?なんて言われる。
怪我の有無や、抵抗したかしないか、相手が顔見知りかどうかなんて関係ない。
レイプされる側がどんな人間であろうが、どんな状況であろうが、事後にどんな態度であろうが、レイプはレイプ、魂の殺人なのである。
そこがわかってないと、上記のような無神経な感想が出る。
説明はしたが、友人はピンと来ないようだった。
彼には一生わからないだろう。
元恋人ライアンの誠実さのない態度も、死んだはずのキャシーからのメッセージに裁かれる。
「これで終わったと思ってる?」
SNS全盛時代、これからの彼のキャリアは終わったも同然だろう。
ひょっとしたら、メッセージはまだ続くのかもしれない。ライアンが着信拒否にしたとしても、着信拒否にしたからありえないと思っていても、いつ来るかわからないキャシーのメッセージに脅かされ続けるだろう。
アルたちも、キャシーを殺してすぐに警察に連絡していれば、つまり自分達のしたことを今回こそは真摯に受け止めて行動していたなら、裁判で一級殺人はくらわないだろうが、証拠隠滅を図った悪質な殺人ということで重罪確定となるだろう。
キャシーの名前が、キャサリンではなくカサンドラなのも象徴的だった。
カサンドラは呪いにより、予言を人に信じてもらえなくなったトロイの王女でもある予言者の名前だ。
キャシーの言うことも、きっと誰も信じてくれなかったのだろう。
ただの幼なじみで親友と思われたニーナとキャシーの関係が、聡明なキャシーをなぜあそこまでの復讐に駆り立てるか最初は不思議だったのだが、ラストで納得。
キャシーにとってのニーナは、単なる幼なじみや姉妹のようなものではなく、崇拝の対象であったのだ。
聖なる存在を冒涜され壊されれば、信者はキレるに決まっている。
だがそれも、その信仰の外にいる者からは理解のできないことなのだ。
「哀れなるものたち」へのいいね、ありがとうございました。こちらにお礼を。
このレビューを読んで現在の松本人志問題を思い出しました。怖い思い、屈辱、モノ扱いされる悔しさ、減るもんじゃあるまいし、女は楽に稼げていいな…的な、あらゆる「男にはわからない」思いを乗り越えた者として身につまされました。時代が変わりますように。