「爽快感のない復讐劇(だがそれがいい)」プロミシング・ヤング・ウーマン よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
爽快感のない復讐劇(だがそれがいい)
果たして、復讐は正しく成されたのか――
本作と『17歳の瞳に映る世界』を同日に観たのだが、通底するテーマに近いものがあり、図らずもリンクして考えざるを得なかった。
両作に共通するのは、性行為にともなう男女の非対称性である。男側の快楽に見合う利益が女にもたらされないどころか、損害とダメージだけが上増しされていく。女は泣き寝入りするか絶望的な復讐に突き進むしかない。
今作で言えば、主犯格であるアル・モンローやその取り巻きだけでなく、傍観者の立場のライアンも含め、男の意識では「そんなことくらいで」ということが、女にとっては取り返しのつかないダメージになる。それが男には理解できないのだ。
キャシーの一見ファナティックな制裁も、そこまでしてもまだ男には分からないという絶望感の上に成り立っている。
冒頭の問いに立ち返る。この映画のラストにおける復讐は、本当に復讐として男達にコストを支払わせることができたのかがどうしても気になる。結局ここでも一番大きな対価を差し出したのはキャシーであり、対して、それなりに地位も金もある男達がちゃんとダメージを受けたのかは厳密には分からない。この後味の悪さ、すっきりしない感覚こそ、性にまつわる非対称性として常に女が抱くそれに似通っている。だがそれこそが監督の描きたかったものではないのか。男から見たら恐ろしい結末だったかもしれないが、女からすればあれではまだ足りない。
……と、つい急進的フェミニストのような感想を抱いたのも確かなのだけど、それはそれとして、この爽快感のなさも含めてなか中に見応えのある映画ではあった。キッチュでポップな部分に目を奪われがちだけれども、ちょっと立ち止まって性差からくる問題意識の違いにも目を向けてもらえると、より楽しめるのではないかと思う。