「コロナ禍の夕焼け空を駆け抜ける 再送信」茜色に焼かれる コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)
コロナ禍の夕焼け空を駆け抜ける 再送信
前のアカウントが分からなくなったので履歴管理のため再レビュー。
1 不慮の事故で夫を亡くし、シングルマザーとなった女性の生き様を現代社会の実相を散りばめながら描いた人間ドラマ。
2 映画の前半は、事故から7年後の主人公と息子の苦しい日常生活を映す。主人公はバイトの掛け持ちで、夜は風俗嬢。見てて気が滅入ってくる。主人公は心が病んでいて、頑張れるわけないのに「まあ、がんばりましょう。」との口癖。無意識のうちに素の自分と演技している自分が入れ替わっている。息子も学校で執拗ないじめにあい、内面が悲鳴を挙げている。いじめた彼らは、悪意ある世間の目や言葉、実力行使を具現化したもの。 映画の中盤では、中学生の息子の役どころが俄然息づく。主人公の同僚とのエピソードでは抑えきれないほどの衝動を見せ、母の軽はずみな色恋沙汰の幕引きでは若さと知恵が躍動する。主人公も内面に溜まった澱を吐き出すように言葉と体が爆発する。
3 主人公の夢はコロナ禍で破綻したカフェ経営の再開と息子の成功を祈ること。ラストシーンにかけて、この親子が夕焼けの川べりを幸せそうに自転車で駆けていく。とても心温まる場面であるが、彼らの生活が好転する要素が見当たらないことが引っかかる。どうかこの場面は、明日の希望につながることの暗示であって、決して主人公の脳内で膨らんだ単なる妄想でないことを祈る。
4 風俗の場面では、底抜けな欲望を誇張した描写はやり過ぎ。また映画の所々で世間の耳目を集めたスキャンダラスな出来事を取り入れていてあざとい。石井の演出はオ−ソドックスな映画づくりからはみ出ている。しかし、近年の邦画は漫画や原作を映画化した口当たりが良いだけのやわなものが増えている中で、ヤンチャでもオリジナル脚本で演出まで行った企みは良しとしたい。