「怒りの指す方へ なんのために生きるのか」茜色に焼かれる Kenjiさんの映画レビュー(感想・評価)
怒りの指す方へ なんのために生きるのか
「もっと怒っていいんだよ」
主人公の良子は度重なる理不尽に合いながら、社会のルールとの狭間でなんとか理性的に生きてきた。怒りを出さないことは、彼女の理性ゆえかとも思う部分も多く見えていて、彼女の賢さゆえの立ち振る舞いにも思えた。
それでも息子のいじめに憤る姿に、「誰かのためなら怒れる」姿も見えてくる。
同級生に詰め寄るシーン
彼女のこれまでの人生を考えたら、本当に包丁を突きくけるべきは、事故の加害者であり、謝罪をしない遺族に対してじゃないか。あるいは、息子の存在を馬鹿にして命の危険まで晒してきたガキどもに対してじゃないのか、とても疑問だった。
だけど、誰かのためじゃなくて、自分自身の身に直接降りかかった理不尽に直接対峙する重要な意味があるのかと思えてくる。
夫は社会に対して怒り、その社会に死んだ後でさえ虫けらの様に潰された。
子供はそんな境遇のせいもあり、変わり者を排除する暴力にさらされた。
はるかに大きな理不尽だし、客観的に見ているこちらとしては、怒りの矛先が不自然にも思えた。
一方で彼女自身は、大きすぎる理不尽に対して「神様」を想定してどこか諦観のような態度でもあったのかもしれない。
しかし、自分自身の問題に対して怒ること、それを彼女が見せること、それこそが彼女が自分の意思で生きる上で重要だったのだろうと思う。
彼女の脅迫行為は、結果として相手を破滅に追いやっている。今まで自分がされてきた、社会のルールから外れた理不尽を他者に与える行為でもあったと思う。穏やかなBGMが流れていたが、決して穏やかなシーンではないと思う。
しかし、それでも彼女は自分の意思で怒り、その結果生きていく道標としての息子の存在を改めて認識するための行為だったのかもしれない。
余談ですが
学校のシーンの後にお店のシーンが流れたり
教師に対して怒っているときに「大事な話が」と言われたり
「学校」という場面で「売春」という言葉が使われたりして、仕事がバレるんじゃないかとハラハラさせたり
事故のイメージ図を冒頭で最初に見せてから始めたり
ポールで視界を隠したり
そのポールが真っ赤だったり
細かな伏線というか、匂わせというか
うわーずるいなー うまいなー
と思いながらも、上手いこと手のひらに乗せられてた感じで面白かったです
あとラストの「茜色に焼かれる」1番大事なシーン
おそらくコンプラ上、2人乗りを漕いでいるところを直接撮ることはできないと思うから、背景ははめ込みだとは思う。
そこはいいんだけど、草花が風で揺れているのに、2人の服や髪が微動だにしていなかったのが気になってしまった。
細かいとこ気になってごめんなさい。