「様々な事に振り回されて、もがいて、あがいて、戦って、開き直る事を示してくれる作品です。」茜色に焼かれる 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
様々な事に振り回されて、もがいて、あがいて、戦って、開き直る事を示してくれる作品です。
以前から気になっていた作品で、鑑賞した方の評判の良いのですが、都内では渋谷の「ユーロスペース」のみの上映となかなか厳しいですが、なんとか機会を作って観に行きました。
で、感想はと言うと、良いね。
なかなかずっしりどっしりな感じで、引っ掛かる部分での「フック」も十分で見応えがあります。
何よりも尾野真千子さんがやっぱり良い♪
アルツハイマーを患った高齢の元官僚の老人が運転する車に交通事故で夫を亡くした良子。
理不尽な事故と加害者側からの謝罪が一切無い事から賠償金を受け取る事を拒否し、また加害者の葬式に訪れるが「嫌がらせ」とされ、一切の焼香にも拒否される。
中学生の息子の純平をひとりで育て、施設に入院している義父の面倒もみているが、経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の風俗の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、息子は言われなき差別と風評被害に苛めにあっている。
だが、どんな時でも「…まあ、頑張りましょう」と前向きな良子。
だがそんな良子と純平、そして風俗店で同じ様に働くケイにも様々な事情があり、皆様々な悩みやトラブルを抱えていた。
世間的に社会的弱者とされるも、前向きに生き、様々な困難を立ち向かっていく。
だが、様々なトラブルが良子たちにのしかかる…
冒頭からいきなりの展開にビックリと言うかショック。
あのオダギリ・ジョーさんをいきなり退場させる荒技はインパクトは抜群であるが、普通に考えると勿体無いw
この事件だけで、あの2019年に池袋で起こった自動車の暴走事故をモチーフにしていると言うのが分かる。
元ネタ(であろう)の事故と映画の内容をリンクさせるのは些か強引であるが、それでも未だに「アクセルとブレーキの踏み間違い」を認めずに裁判で争うと言う姿勢は正直腹立たしいのを通り越して、吐きそうな嫌悪感を覚える。
なので「あの事件」を深く知ろうとするのはあまりにも精神的にもよろしくない。
でも、映画の作品を世の中に問いかける「フック」と言うのには、良い悪いは置いといてかなり効果的。
劇中で加害者の家族は「事故は仕方なし」「国民の為に尽くしてきた親父に対して、あの仕打ちは非常識だ」と言うのは「事故なんて親父の今までの功績を考えれば大した事はない」と言う事なんだろうけど、身勝手な「上流国民」の劇中のセリフとは言え、ムカムカします。
そんなイライラとムカムカで始まったと思えば、尾野真千子さん演じる良子の逞しさと飄々とした態度と行動に呆気に取られる。
もちろん、いろんな事を考えた上での行動かと思うが、貧乏に瀕しても賠償金を受け取らないのは謝罪をしなかった加害者へのせめてもの抵抗と言うのはある程度理解しようとしても、やっぱり全部を理解は出来ない。
生活費を稼ぐ為に風俗店で働くのも賠償金があればそうはならなかったのではと思うだけに、どうしても良子のエゴに感じてしまうんですよね。
でも、この辺りの良子の「正義」に呆気に取られるが多分、これも作戦の内で「観る側を手玉に取ってる」んでしょうね。
それぐらいに良子のしたたかさと純情、バイタリティが画面を通してグイグイきます。
あと、尾野真千子さんのベテラン(に見える)風俗嬢っぷりにはドキドキしますw
キャストは尾野真千子さんを筆頭になかなかな布陣で力強さを感じます。
個人的にはケイ役の片山友希さんが良い感じ♪
純平役の和田庵さんは絶妙なチョイスかと思います。
良い部分が多くて、観ていてもグイグイ引き込まれる部分があるんですが、ただそれでもツッコミどころはあるw
そんなツッコミどころを書いておくと…
・純平のいじめっ子が放火未遂で純平達が団地を追い出されるのに、いじめっ子達には何もないのか?
う~ん…いろんな物が消化不良であってもここは台詞だけでも良いのでキチッと決着をつけて欲しかったなと。
弱みに付け込んだり、自己満足の為に弱者をいたぶるのは描写であっても大嫌い!
他の部分は割りとオチがついてるのに、これだけほったらかしになってるのは納得いかんです!
・良子が勤めている風俗店「カリペロ」w、他の女の子が居る描写がない(殆ど)!
控え室は結構広いのに2人では結構もて余している感じ。
交流は無いにしても、他の女の子達の描写があるともっと良かったかなと。
・良子の同級生の熊木との出会いは出来すぎじゃあないすか?
かなり唐突過ぎw
ちょっとドラマを作り過ぎてしまっていて、分かるんだけどなんかこのエピソードだけ浮いてる感じがするんですよね。
放火の後に団地を追い出されるのが決定して、良子が包丁をカバンに入れて、向かうのはいじめっ子達か?はたまたここまで無関心を装った学校の担任か?と思いきや…自分を軽く遊びのつもりでもてあそんだ熊木だった!
思わず“そっちか~い!”とツッコミましたw
自分の大切な息子を苛めて、挙げ句の果てに放火未遂とは「お天道様が許しても私が許さん!」と来るのかと思いきや、自身の「女」の部分のプライドが最優先w
いや~ツッコんでしまいましたw
他にも幸子と滝のシーンは思わず「えっ?」となって「あのシーンているのか…」となったりしますが、永瀬正敏さん演じる風俗店「カリペロ」の店長の唐突な登場であってもスカッとする仕事人っぷりに思わず「カッケー!」となって、その後の仕事きっちり!っぷりにカタルシスが下がっても、出来ればいじめっ子達にも成敗して欲しかったし、ケイを幼少期からレイプした父親が火葬場にしれっと来ているのにも良子もしくはカリペロ店長の正義の鉄槌が降るかと思いきや…降りなかった。
また、13歳でスポーツとかやっているそぶりがないのにやたらと純平がムキムキっとした細マッチョだったりw、あと、純平のIQの異様な高さが光明であるにも関わらず、そんな天才としての事実も後々にはスルー気味だしw
年上の女性のケイに憧れて、自転車をかっ飛ばす純平の真っ直ぐな純情は思わずうなずいてしまいますが、純平の思春期の恥ずかしい妄想行為にはあんまり触らないでおくれw
そんな何かと観る側の「ひだ」をくすぐる「何か」尾野真千子さん含めて、色々と用意しているんですよね。
石井裕也監督の作品って、今までも「舟を編む」や「夜空はいつでも最高密度の青色だ」「町田くんの世界」といった個人的には良作があるんですが、前作の「生きちゃった」は個人的にはちょっと「やらかした」感があって、少しランクダウンw
でも、人物のひだを大いに触って、刺激して、優しくなぞる様な描写が気になるし、割と好きなんですよねw
でもなんと言ってもやっぱり尾野真千子さんに尽きるかなと。
茜色に焼かれると言う、何処かノスタルジックで優しい感じに聞こえても、ファンタジーにもミステリアスにも感じるタイトルも秀逸。
ラストの自転車の二人乗りもとても良いし、何処か突発的に決めた介護ホームでのリモート芝居も呆気に取られながらの純平のツッコミ的セリフがナイス。
「そこに愛はあるんか?」と言われたら、間違いなく愛はありますね♪
怒りや苦しみ、他人の無関心や無自覚で理不尽な悪意。様々な事に振り回されて、もがいて、あがいて、戦って、開き直る。
「明けない夜はない」なんて言いますが、夜になろうとする夕暮れの茜色に焼かれる様に染められるのは、他人がどう言おうが精一杯生きている証。
都内での上映館が少なくて、物凄く割を食った感じが勿体無い。
でも、とても見応えのあって、刺激もある「良い」作品かと思います。
興味があって、まだ未鑑賞の方は是非是非な作品。
お勧めです♪
コメントを読んだらまた泣けてきました。昨日キネカ大森で尾野さんと石井監督が登場するトークショー付きの映画を観たものです。本論ではないですが、トークショーの司会が映画のテーマや演技の事を聞かず、尾野さんの再婚やコロナ禍での撮影についてばかり聴くのがやや不満でした。映画館もトークショーをやるならちゃんと聞く人に勉強して臨んでもらいたいと思います。それとも何かそんたくがあるのかな?との疑いが?
NOBUさん
コメント有難うございます♪
また、お褒め頂きまして光栄です♪
都内はシネコンは全滅ですが、ミニシアター系の映画館はいくつかはやってるみたいですね。
吉永小百合さんのコメントはニュースでも読みました。
映画が何故ここまで狙い撃ちされるのかは本当に謎ですね。
もう少しきちんと精査をしてほしいもんです。
また、お暇がありましたら、覗きに来て下さいね♪
今晩は
熱い熱いレビューですね。素晴らしい・・。
今作は、私も東京ほどではないですが、先日会社終了後、漸く観れました。
東京は、岩波ホール以外は、全映画館封鎖かと思っていたのですが・・。
目に見えない、強烈な力が波及し始めていますが、先日の吉永小百合さんの怒りを押し殺した舞台挨拶は、沁みましたね。