「社会派ぶってるけど作家の視点はどこにもない、語る価値もない映画」茜色に焼かれる 東鳩さんの映画レビュー(感想・評価)
社会派ぶってるけど作家の視点はどこにもない、語る価値もない映画
尾野真千子さんが舞台挨拶で泣いて映画愛を訴えたという話題を聞いて、プレスリリースを見る限り東池袋自動車暴走死傷事故やコロナ禍のことまで描いている社会派な作品に思えましたので鑑賞しました。
しかし、結論から言うと社会派ぶってるけど作家の視点はどこにもない、語る価値もない映画でした。
出てくる社会問題は東池袋自動車暴走死傷事故やコロナ禍だけではないんです。
シングルマザー家庭の貧困
中学校のいじめ
老人介護
正規雇用者から非正規雇用者へのパワハラ
風俗で働く女性の問題
子どもの貧困と教育格差
1型糖尿病
実父による娘への性暴力
DV
堕胎
子宮頚がん(日本でワクチン接種が進まない問題)
若者の自殺などなど
ストーリーは社会問題の幕の内弁当状態ですが、いずれも作者がストーリーを都合良く展開させるための道具でしかなく、わざわざそれを取り上げたことに対する作者の視点は、どの社会問題に対しても一切ありませんでした。
何も考えずに観られてただ面白かった、で終わりのバカリズム作品や福田雄一作品ならこんな野暮なことはいいません。
しかし、被害者もいれば加害者もいる、簡単に解決できないけど今日も誰かが泣いて暮らしているような社会問題をただの娯楽でしか無い映画に引用するのであれば、そこに作者の視点を明示するのが最低限のマナーだし、作家の矜持だと思います。それこそが表現の自由ですよ。
誰もが心に思っている事柄を、再認識させ共感させる。
誰もが知りながら心で見過ごしている事柄を、改めて再認識し実感させる。
人に知られていない事柄を書き表して、そこに意味を発見し光を当てる。
これだけの社会問題を引用しておいて、それらに対しての作家の視点が一切感じられない。
そして、最終的な終わり方が「子宮頚がんを苦にして自殺した子から運よく大金もらえたから、貧困母子家庭でも、なんとか生き延びられます。ハッピー」じゃねぇだろと。
シングルマザー家庭の貧困を舐めてんのか。
正直、この映画監督の薄っぺらさがたまらなく気持ち悪い映画だなと思いました。
他にも、ご都合でキャラとキャラが何度も偶然出会ったり、所々セリフが冗長だったり、ただの説明台詞だったり、テロップやナレーションまで用いて説明過多だったり、片田舎の話と思いきや自転車で渋谷まで行けたり、尾野真千子が死んだ旦那のことを今でも想っているのかと思いきやポッと出のモブキャラを好きになったりと、自主映画みたいにレベルが低い箇所が散見されていました。
上映時間がとにかく長いですけど、もっと描きたいものに焦点を絞れば、編集の精度をあげれば120分には収まったと思います。
まぁ、監督が何が描きたいとか整理できていないから社会問題の幕ノ内弁当状態だったんでしょうけど。ラストシーンもおもくそ蛇足でたまげました。その前で終われるし、終わらない神経を疑います。