「メラメラと青い炎のように燃える尾野さんが「今」を描きます。」茜色に焼かれる バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)
メラメラと青い炎のように燃える尾野さんが「今」を描きます。
大好きな女優さん尾野さん主演作。観ないわけがない、、、、ってことで鑑賞です。
本作は楽しい作品じゃありません。爽快感も溜飲が下がこともなし。もちろん、全米も泣きません。「負の現実」が怒涛のロイヤルストレートフラッシュで迫ってくる作品です。今の日本の中における不条理を、社会的弱者の現実をこれでもかと見せつけてくれます。
同じ法、ルールの中で生きてるのに、強者はより強く、力なき者たちは集団となりマイノリティを挫く。弱者はただただ耐え忍ぶ。さらにこの時期だからこそ描けるコロナ禍が引き起こす負。女性という立場がもたらしてしまう負。食べきれないほどにテーブルに「今の日本」が並びます。本当にこれでもかと。さらに、その弱者が選ぶ未来まで提示します。
こんな社会でいいんですか?あなたたちが生きてる世界ってこれですよ?と監督が問いかけてきているようです。ただ、どんなに不条理でもどんなに打ちのめされても生きるしかないのが我々なんだと思いますが、なんとも悲しい話です。不条理に叩きのめされ、自分を押し殺し、感情を鎮め、ただただ辛い社会の中生きる意味を見出し生きて行くなんて・・・辛いですよね。
そんな辛い社会に生きていく者は、暗黒の夜と昼間の狭間を漂っているのかもしれません。綱渡りのようにふらふらと落ちそうになりながら、なんとか夕焼けの中バランスをとって生きているようです。そこに留まるか、暗い世界を選択するのか?。バランスと取り落ちずに食い止まっているのは「生き甲斐」あってこそなのでしょうね。生き甲斐が有りさえすれば、夕焼けの茜色の空の色に染まりながらもなんとか生きていける、人生の暗い夜に落ちていくことないはずだと・・・。そんな応援歌の作品であってほしいと思いたいです。
と、思う反面。本作は監督からの痛烈な「皮肉」も込められている気がするんです。ずっと引っかかってるのは、冒頭画面右隅に出る文章です。
「田中涼子は演技が上手かった」
この演技とはなんぞや?と。この不条理が立ち込め、弱者を痛ぶる世界で生きていくには、自分の本心を演技で欺きながら、心配する周りの人達に演技で安心させながら、このくだらない社会を生きているために「あなたは演技して生きているんですよ!」と。そう田中良子は僕たち自身の姿なのではないでしょうか?「まぁ、頑張りましょう」はおまじない。ホントの気持ちは抑え込み、生きていくために大丈夫な自分を演じ切るための。良子に対して持つイライラ、違和感は実は自分たちに対してのものだったのではないだろうか?と。「変える努力せずに乗り切る演技をしてるよね?それでいいの?」って監督がシニカルに言ってきている気もするのです。
こんな2つのメッセージが込められているんじゃないかな〜?って勝手に思ってますけどね。
本作は強い描写と強いメッセージがふんだんに盛り込まれ、それを尾野さんはじめ、演者さん達のの魂が込められた演技で、説得力200%で届けられる作品です。観たら何かが解る、何かが変わるというものでは有りませんが、日々の生活の中で、人生で大きなアクセントをつけてくれる一本ではないでしょうか?
本作ではそんな不条理社会をクローズアップしていますが、ちょっとだけプラスも描かれます。それは人間関係の中で生まれるものです。ほんのちょっとですが。それもまた今の世界ですよね。
ただ一点、良子がなぜに自ら不幸を選んでいくようなストーリーになってしまったんだろうか?という点だけが、納得行かなかったんですよね。これほど生きることに、息子と生きることに全身全霊をかける人物が、経済的な部分で自我を通すかなぁ?ってのが僕にとっては疑問で、それがずっと鑑賞終了まで腑に落ちなかったんです。この不幸って、良子さんが選んだ不幸ですよ?もっと考えて、他力を頼って行動した方が良かったんじゃない?って。ストーリー作るための不幸の連鎖感が、僕としてはフィットしなかったんですよね。その点加味の評点です。