「地下から見出だされた新たな才能」JUNK HEAD 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
地下から見出だされた新たな才能
昨年を代表するアニメ映画と言えば…?
『シン・エヴァ』? 『竜とそばかすの姫』? 『呪術廻戦』?
本作を挙げる人も少なくないだろう。
彗星の如く現れたクリエイターが、ほぼ一人で制作。監督、プロデュース、脚本、撮影、編集、美術、音楽、音響、絵コンテ、キャラデザイン、さらには声の出演までほとんどの作業を兼任。
映画製作は独学。7年の歳月を費やして。
創り上げられた世界観に、海外で称賛。あのギレルモ・デル・トロが絶賛。
日本でも公開されるや否や、大反響。
ずっと気になっていた作品。やっと鑑賞。
その感想は…
海外や多くの方々と全く同意見。この世界観に圧倒…いや、衝撃を受けた。
“荒廃した未来世界”は目新しい設定ではない。SF作品の定番中の定番。
が、本作で描かれた、ダークで不気味、ユーモアとシュール、低予算作品でありながら実は壮大な世界観は、何処かで見たようでもあり、本作だけの唯一無二の斬新さ。
映画史に残る名作ディストピアSFから多大な影響を受けた事が窺い知れる。
何と言ったらいいだろう。奇抜で奇妙、可愛らしくもあり、でもやっぱり不気味。個性的過ぎるキャラたちのオンパレード。
荒廃した未来世界を一人さ迷う“主人公”の姿に、何故か『ウォーリー』が被った。あの“3バカ兄弟”は何だか体型が黒いミニオンに見えて…。
デル・トロが絶賛したのはこの作品自体もだろうが、数々のクリーチャーだろう。
マジでデル・トロ作品に登場しても全く違和感ない、奇抜で不気味なクリーチャーたち。何体か『パンズ・ラビリンス』に出てたよね…?(笑) 小さい子供が見たらトラウマレベル。
発せられる言葉は何語か分からないこれも創造した言語。それがまた未知の世界観を創り出す。
一つ一つが徹底したディテール。
ディストピアSFを日本で実写映画で作ったら、大方散々酷評されるだろう。
が、アニメなら別。アニメならその表現レベルはハリウッドすら凌ぐ。
セルやCGではなく、ストップモーションなのがリアルさを醸し出す。
キャラも動きは勿論、無機質や顔が隠れ見えないのにも関わらず、不思議と感情が伝わってくる。
独特の世界観も素晴らしいが、演出の妙。
今後“堀貴秀”の名を見かけた時、無条件で心躍るだろう。
設定は…
環境破壊が進み、人間が住む事が出来なくなった地上。地下に移り住む為、労働力として人工生命体“マリガン”を造り出すが、自我に目覚めたマリガンによって地下は乗っ取られてしまう。
1600年後。身体を無機質体へ転換する遺伝子操作で永遠の命を手に入れたかのように思えるが、その代償として生殖能力を失う。さらには新種のウィルスによって、人類は絶滅の危機。
その回避として、地下で独自の進化を遂げたマリガンに人類存続の希望を見出だす…。
メインストーリーは…
その調査に志願した主人公。地下世界で遭遇するトラブル、マリガンらとの出会いを経て、人類存続の鍵を発見出来るか…?
開幕で一応舞台設定の説明はされるが、驚くほど簡潔。
緻密に創り上げられた世界観なだけあって、しっかり舞台設定を抑えておかないと置いてきぼり感を食らうかも。
その舞台設定も二重に積み重ねられ、少々複雑でもある。
当初主人公は、記憶が無いバラバラの状態でマリガンに拾われる。やがて記憶を取り戻し、見る側も主人公の目的(メインストーリー)が分かっていく。
主人公が遭遇するトラブルや出会い、迷宮のような地下冒険記。
話の展開自体は王道的だが、ちとワクワクハラハラドキドキの躍動感には欠けた。
設定や話だけを追ってたらちと退屈かも。
ここら辺、ちょっと個人採点マイナスにさせて頂いた。
明らかなウ○コやチ○ポコなどのお下品描写、非情な食物連鎖のグロさなど、はっきり好みは分かれる作風。
また本作は3部作の第1章。人類とマリガンの歴史が辿られていくというこれからの壮大な展開に期待を込めて、今回はこの採点に。
話の深み、面白味はこれから。
本作はあくまで、新鋭クリエイターが創り上げた世界への入り口。
それだけでも見る価値はある。
本作は本当の意味で、“見る”作品だ。