劇場公開日 2021年8月27日

「トリッキーな作品」鳩の撃退法 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0トリッキーな作品

2024年5月7日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

難しい

物語の主人公が作家本人という設定。
これがこの作品をややこしくさせている。
主人公のツダシンイチは作家活動の難しさから身を引いていたが、コーヒーショップで声をかけた男の不思議な話と、一家失踪事件、そして懇意にしていた古本屋の店主が死んで受取ったバッグの中の3千万と3万円。そして、そのお金が偽札だったことで創作意欲が湧き、再び書き始めるというのが物語の主軸になっている。
編集者は彼の復帰に期待しつつ、彼が以前仕出かしたノンフィクション事件をフィクションとして出版したことに注意する。
ツダの妄想は実際に起きた事件とほぼ関係がない、編集者の存在がそう思わせるのだ。
二人はそれがあたかも実際に起きたことのように、物語の続きをどのように設定するのかを話し合いながら進めていく。
ツダの想像上の出来事が作品の映像となっている。それに加え、一部編集者の妄想も映像化されている。それがお金をすべて焼くシーンだ。ややこしい。
「物語」と「事実」の二つが存在することが、この作品をやたらややこしくしている。
おそらく物語上の「事実」は、ツダのデリヘルの足の仕事、コーヒーショップで話しかけた男との会話、店主から受け取ったお金だ。このことはツダ本人が作品の中で話している。
最後に畳みかけるように、偽札の流れがはっきりするが、ツダが編集者に話したように「物語の本筋でないものはあえて書かない」ことで、作品の中で解決されない「問題」をうやむやにしている。
これが視聴者の不満になってしまうのが惜しい点だ。
ツダの創作したプロットの疑問、偽札とクラタの関係、そして3千万を寄付したクラタは「お金に振り回されているのが嫌い」という設定、そこに統一感がない。
そして死んだ店主は、ツダの創作意欲を掻き立てるために彼に遺産を残したという考えにくい「事実」 それがそもそも理解できないし、ツダの本と栞の3万円をあの親子が古本屋に持ってきたというふうに設定するのはおかしいと思わざるを得ない。
逆を言えばこの作品のそのような疑問点はすべてツダに押し付けている。それがさらにややこしきさせるのだ。
ツダの小説では、クラタと仲間たちが「諸悪の根源」と称するナナミに対し、幸地秀吉とハルヤマをリンチにするが、何とか全員逃げたことにした。
しかし実際は幸地が主体となってナナミとハルヤマ、そして娘を処分したと考えられる。
DNAからこの3人が家族だと証明されるのはいいプロットだった。
幸地は「どうしようもないことを、どうにかしたいと思う」「事実は小説より奇なり」ということで、ツダの想像と事実の差は明確にあるのだろう。
編集者はツダに「バッドエンド」というあたりが面白い。「事実」はハッピーエンドとバッドエンド両方あったのだと推測する。
さて、
ツダの読みのセンスはとても面白い。しかしまだ出版されていないことで、その内容は誰も知らない。
事実として幸地は最後にツダに借りていた「本」を返しにやってくる。本は冒頭で幸地に貸したままだった。つまり本と偽札とあの親子は無関係で、同時に偽札の3万円がなぜバッグに入っていたのかも映像とは違ってくる。
そして車に乗り込むときの幸地の目は堅気の目ではない。
これも勝手な妄想だが、ツダが創作した「幸地とクラタの会話」 「家族なんて不要だ。俺たちはみな家族など知らなくてもこうして育ってきた」というのが唯一当たっており、寄付を受けた者があいさつに来たのは、クラタたちが育った孤児院がこの寄付によって救われた事実があったからだ。
偽札事件とはいったい何だったのか? 妄想するにそれは、孤児院の危機を救う手段だったのではないのか? しかしそれは粗悪品で、機械には通らず使い物にならなかった。しかし、ツダがその代わりをくれたのだ。
裏社会の人間が最も嫌う「裏切り」 それはナナミのしたこと。その報復は行われた。
同時に、ひょんなことで出会ってしまった「あの作家」のツダが、窮地に陥っていた孤児院を救ってくれたことがこの作品に隠されている事実ではないだろうか?
事実は小説より奇なり
ツダは創作のために妄想したのだ。同時に偽札事件に巻き込まれながらお金をすべてクラタに渡した。
彼の創作内容の映像が「事実」とは異なり、それがとてもややこしくさせている。
しかしこの内容を考える妄想こそ、面白い。

R41
満塁本塁打さんのコメント
2024年5月7日

ありがとうございます♪全文拝読させて頂きましたが 時間的に前の作品で ご指摘のとおり トリッキーすぎる印象で
『雰囲気』以外忘れております。おじさん というより お爺さんなので・・貴殿のレビューで少しだけ思い出しました。 イイねありがとうございました😊😊😊

満塁本塁打