「丁寧に丁寧に描かれるバンドの物語です」映画:フィッシュマンズ バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)
丁寧に丁寧に描かれるバンドの物語です
上映後、茂木さん、監督、プロデューサーさんの舞台挨拶付きの回を鑑賞です。
上映時間3時間弱でフィッシュマンズというバンドの約10年をおさらいするような作品でした。時間が気にならない素晴らしい構成、内容、編集です。プロデューサーさんがデビュー当時からのフィッシュマンズの大ファンだそうで、きっと痒い所に手が届く内容になっているんでしょうね。僕は残念ながらフィッシュマンズの音楽は1、2曲程度しか知らない音楽ファンです。ですから彼らのことはよく知りませんし、こんなに沢山曲を聞くのは初めてでした。
ドキュメント映画作品としては初公開の音源、映像がたくさんあった(と思いますが)ので、ファンの方々は大変喜んだのではないでしょうか?僕としては佐藤さんの歌詞が描かれたノートの描写がグッときましたね。表現者って感じが伝わってきましたね。また、インタビューの密度が高かったと思います。誇大化するでも良い思い出だけを話すでもなく、みなさん真摯な言葉で過去をお話しされている感じがとてもよかったと思います。監督自身がインタビュー行ったと思いますが、とても良い聞き手だったのかな?って思います。みなさん、思い出したくないこともあったと(勝手に)思っていますが、しっかりお話いただいているので。だからでしょうね、妙な装飾物がない印象です。また、当時のバンドの空気まで伝わってくる感じでした。この点だけでもドキュメント作品としては素晴らしいですね。
作品はバンドの日記を1ページずつめくっていくように丁寧に展開していきます。本当に丁寧なんです。この神格化、伝説化しようとしていない等身大の描き方が本当に好感が持てます。故に、このバンドが産声をあげてからの出来事を見ていると、「あぁ、世の中の多くのバンドがこのような物語を持っているんだろうなぁ」って思います。バンドという集合のリアルな物語が本作に描かれています。そして、フィッシュマンズだからこそのエピソードがそこに乗ってくるのですね。その描き方が映画的ではないかもしれません。バンドのコアであった佐藤さんに思いっきりフォーカスをしていない点もフィッシュマンズというバンドを表しているのかもしれません。その点はすごく興味深かったですね。バンドの音はバンドが作る。という意思の表れではないでしょうか?映画もしかりってことで。
茂木さんが本作はあるチャプターの締めになったと仰ってました。なるほど。確かにそんな気がしました。総括みたいな感じです。ですから初心者にはもってこいですし、ファンの方は改めて「好き」を確認できるのではないでしょうか?僕はおかげさまで観賞後、フィッシュマンズを聴く機会が増えました。好きになりましたよ。
監督はカットしたインタビューが山ほどあるって仰ってました。制作の裏側もたくさんお話しいただいたと。(やはりインタビューのクオリィティ高いですね)いずれ映像として公開してほしいですね。
秀作でした。