「誰も知らない征服された道」やすらぎの森 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
誰も知らない征服された道
邦題から“孤独な世捨て人の物語”だと思っていた自分としては、物語の展開にピンとこなくて、観終わっても違和感が残った。
違和感の原因は3つ。
「鳥の雨が降る」みたいな変な原題、存在意義が不明な「女性写真家」、そして昔あったという「大規模な山火事」。
「山火事」は、1916年に起きた「Matheson Fire」という、223名というカナダ史上最悪クラスの死者を出した実際の事件をモデルとしているらしい。
煙に巻かれ、酸素不足に陥ったたくさんの「鳥」が、(雨のごとく)空から落下してきたという、生存者の証言を伝える証言がある。
「女性写真家」は、美術館の依頼で「山火事」の生存者を取材するため、(“完全”な円形をもつ)パーフェクション湖を訪れる。氷河期の氷が溶けてできた、翡翠(ひすい)色の湖だ。
原作小説は、この「女性写真家」の一人称形式らしい。つまり本来、「女性写真家」こそがメインキャストなのだ。
というわけで、これら3つは相互に密接に関係しているのだが、“世捨て人の物語”に対しては、やはり違和感でしかない(笑)。
亡くなったテッド・ボイチュクが、「鳥の雨が降る」絵を人知れず描いていたとはいえ、また、新たな「大規模な山火事」がこの秘境の暮らしにトドメを刺したとはいえ、基本的には別々の2つの話が、オーバーラップされている格好だと言えよう。
しかし、これらの違和感によって、いわゆる“感動的なヒューマンドラマ”の枠には収まらない、ピリ辛なテイストをもつ作品とみることもできる。
また「大麻」は、自分たちで楽しむためではなく、大麻を売って現金収入としていたということらしい。世捨て人は“犯罪集団”なのだった。
設定ではみな80歳を超えているはずなのに、チャーリー役もトム役も実年齢が70歳ちょっとで、壮健すぎるところはマイナス点だ。
その点、本作が遺作となったジェルトルード(=マリー)役のラシャペルは、とてもフィットしている。
ジェルトルードが、チャーリーに対して積極的なのには驚かされた。映画「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」を思い出す。
しかし、実はその背後には、密室と化した施設に閉じ込められた女性が、男たちに陵辱されるという悲劇がある。
そして、そういう目に遭っていながらも、優しい男の人肌を求めるジェルトルード。
“世捨て人”たちが、3人3様の結末を迎える点も良い。それぞれが、自分の人生に、自分のやり方でケリをつける。
「女性写真家」も、テッドには直接には会えなかったものの、テッドが言葉では表現できずに、絵で表現し続けた“証言”を獲得して、ドヤ顔のラストである。
とても不思議なハッピーエンドであった。