劇場公開日 2021年7月9日

「個人の感想です」100日間生きたワニ laymanさんの映画レビュー(感想・評価)

1.0個人の感想です

2021年7月11日
PCから投稿

この作品が伝えたいことは、主に以下の二つであると思われる:
1. 命の大切さを伝えたい。
2. 主人公が死ぬまでの時間を意識させることで、生きている時間が有限で、価値あるものなので大切にすべきだと伝えたい。
以上のメッセージは、作品そのものだけではなく、原作者さん自身の作品に対するコメントの抜粋
"「終わり」があるということを人それぞれが改めて意識したら、今何をすべきなのか、考えや行動が、よりよい方向に行くのではないか?と思った"
であるとか、いきものがかりが作品の終了に伴って配信した楽曲 "生きる。"からも窺い知ることができた。
しかしながら自分には、作品を通じて上のメッセージを発信する試みが失敗しているように感じられてしまった。
主人公のワニは、死ぬまでの100日間を基本的に無為にダラダラと過ごしている。優しい性格で、人に迷惑をかけないような生き方ではあったが、遊び仲間と享楽に耽ってばかりで、精神的向上心を見せることもなく、はっきり言って愚鈍な生活に関する描写ばかりが目立っていたと思う。このような生活描写に基づいて、2. のように有意義な生き方をすべきだと鑑賞者に思わせようとするのは無理があると思う。
"主人公のワニは無為に時間を過ごしたまま死んでしまったが、鑑賞者の皆さんはこうならないように時間を大切にしましょう"
といった感じで、ワニを一種の反面教師に仕立てて、逆説的にメッセージを伝えようとするのであればまあ理解できると思うのだが、この作品では、
"一般論として命は大切で、身近な人の死は悲しい"
という 1.のような自明な倫理観に基づいてワニの存在を全面的に肯定しており、その上で2.のような形で生への賛美を伝えようとしているように思えてならず、それは破綻していると思った。自分にとって、ワニの生き方は両手をあげて賛美できるようなものではなく、描写されている100日間がその人生の全てなのだとしたら、"考えや行動が、よりよい方向に行く"という行動原理にしたがって一生懸命生きているようにはとても思えなかった。
以上の理由から、この作品を通じて、道徳の教科書に書いてあるような生命に関する倫理観が無理やり押し付けられているように感じ、自分は強い拒否感を覚えてしまった。
一方で、上の感想は、読者がワニの生活描写を受け入れられるかどうかに関する主観的な問題に負うところが大きいので、肯定的なレビューを書く人がいてもいいと思う。

layman