「シュールなファンタジードラマ」秘密の森の、その向こう ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
シュールなファンタジードラマ
物語の視座がネリーに固定されており、スタイル自体は児童映画のように捉えられる。しかし、実際にはそう簡単に割り切れない不思議な作品である。祖母の喪失、母の不在によるネリーの不安や戸惑い、孤独がリアルに表現されており、大人が見ても十分に堪能できる作品となっている。
森の中で育まれるネリーとマリオンの交流もどことなくシュールである。そう思わせる最たる要因は、ネリーとマリオンを双子の少女に演じさせた点にあろう。一応着ている物や髪型などで差別化はされているが、同じ容姿の少女が並んで遊んでいるのを見るとなんだか不思議な気持ちになる。
そして、映画を観ていれば容易に想像がつくが、マリオンはネリーの母親の幼き頃の姿なのである。ネリー自身もそれは知っていて、それでも尚、自然とマリオンを求めてしまう。それは母の不在からくる寂しさなのであろう。
自分は最初、これは孤独に病んだネリーが創り出した妄想の世界なのではないか…と思った。しかし、どうやらそうではないということが中盤の父親との会話から分かってくる。父親にもマリオンの姿が見え、実在する者としてそこに存在しているのだ。こうなってくると益々このシュールな世界観に惹きつけらてしまう。
こんな感じでネリーとマリオン、同じ容姿をした少女の交遊が続いていくのだが、やがてそこから一つの真相が明らかにされていく。この計算されつくされた構成にも唸らされてしまうばかりだ。最終的に母娘の絆という所に帰結させた脚本も見事である。
監督、脚本は前作「燃ゆる女の肖像」が評判を呼んだセリーヌ・シアマ。残念ながら前作は未見なのだが、本作を観る限り演出は淡々としていながらも、ヒリつくような緊張感漂う映像にグイグイと惹きつけられた。また、終盤におけるBGMの使用もドラマチックな効果を生んでおり、中々の手練れという感じがした。
ただ、個人的には1点だけ気になったことがある。それは、あれだけ祖母のことが大好きだったネリーが、生前の祖母にそれほど執着していなかったことである。マリオンとの交遊に焦点を当てた描かれ方をしているので、祖母の存在が希薄に映ってしまった。これについてはどう捉えたらいいのだろう。少しだけ不自然に感じてしまった。