「不可逆について考えさせられる」白い牛のバラッド 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
不可逆について考えさせられる
不可逆という言葉がある。死刑制度においては、人が人の命を奪うことの倫理的な是非や、人の下した判決に絶対というものはないという論点もよく取り上げられるが、いずれにしても死刑執行してしまうと、失われた命を再生することは不可能だ。この映画に登場する男女はいずれも不可逆の闇に囚われた者たちと言えるのかもしれず、まったく異なる人生を歩みながら、神の名のもとにある法制度を真っ向から疑わざるを得ないような事態に直面する。彼らは「神の思し召し」という言葉で自らの苦痛を和らげようとは決してしない。その上で、期せずして巡り合った目の前の相手を唯一のよすがに、日々の暮らしに微かな灯りを見出していく。白い牛についてもう少しわかりやすく触れてほしかったし、ドラマティックな展開を期待してしまった自分もいる。だが二人の静かなる関係性には見応えがあり、ラストシーンには、映画ならではのささやかな不可逆へのあらがいを感じた。
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