「初見では半分も拾えない膨大なトリビアと赤裸々な言葉の応酬が浮き彫りにする凶暴な皮肉が痛快極まりない。金熊賞受賞に納得しかない挑発的で型破りで極めて知的な作品。」アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0初見では半分も拾えない膨大なトリビアと赤裸々な言葉の応酬が浮き彫りにする凶暴な皮肉が痛快極まりない。金熊賞受賞に納得しかない挑発的で型破りで極めて知的な作品。

2022年4月23日
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鑑賞方法:映画館

タイトルに反して極めて知的、すなわちこのタイトルに眉を顰めて遠ざける、まさしく本作に表現の自粛を強いるような風潮を嘲笑う凶暴な作品。監督が自らに強いられた検閲作業をむしろ楽しんでいるように見えるのはそのような強制もまた本作のテーマをくっきりと浮かび上がらせるからではないか。映画は三部構成となっていていきなりぶち撒けられる赤裸々にも程がある動画(といっても自己検閲されているので見えませんが・・・)がネット上に流出してしまった中学校の歴史教師エミが狼狽しながら街を徘徊する第一部、様々な逸話を写真や動画で縁取って陳列する第二部、そしてパンデミック下にも拘らず開催された父兄会に呼びつけられたエミが個性的な保護者達と舌戦を繰り広げる第三部という構成。全編を貫いているのは乾いたユーモアで、無数に挿入されるネタが浮かび上がらせるのは、躍起になって隠そうとしたり目を逸らそうとしているものよりももっと卑猥なものがそこら中に散らかっているこの世界そのもの。パッと見では半分も拾えない膨大なトリビアがパンパンに詰まっているので前代未聞の結末までずっとボディブローを食いっぱなしになります。

原題を直訳すると“変態ポルノにぶち当たる不運”。画面にボカシやモザイクを入れるのではなく独特の手法で自己検閲を施すラドゥ・ジューデ監督がフランク・ザッパを頻繁に引用しているのは自己検閲版ならではのオマケ。前日に偶々『ZAPPA』を観ていたのは、本作のタイトルに反して非常にラッキーでした。

学生時代にルーマニア語とスペイン語は非常によく似ていると教わっていましたが、当然ポルトガル語とも親和性が非常に高く、ほとんど知識がないはずの言語のはずなのに耳からもちゃんと情報が入ってきたのには少し驚きました。ブカレストの退廃的で埃っぽい街並みも自分がかつて住んでいた街にそっくりで一層身近に感じました。

よね