劇場公開日 2021年12月17日

「「偶然と想像」この繊細な言葉の組み合わせの不思議」偶然と想像 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「偶然と想像」この繊細な言葉の組み合わせの不思議

2022年12月13日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

普通、偶然という言葉が想像と結びつきません。
そこに濱口竜介監督の異色な個性と感受性をみました。
私は特に第2話の「扉は開けたままで」に惹かれました。
中年の大学教授・瀬川(渋川清彦)の存在が際立っている。
この性格なんとかならんのか?
学生に単位を与えず留年させる・・・
私の尺度では、こういう人の《妥協を許さない頑迷さ》は、
許し難い。
すごく損する性格だと思う。
「居るだけで嫌われる存在」と瀬川も分かっているのに、
自分の心をコントロール出来ない。
(寛容になろうとしない?)
瀬川に単位を落とされた佐々木は、
ハニートラップをセフレの菜緒(森郁月)に頼む。
瀬川の教授室を訪れて芥川賞受賞作にサインを頼み、
質問と称して作品の
特にエロティックな文章を読み上げる。
菜緒が教授室の扉を閉める。
緊張した表情の瀬川が、扉を開ける。
人との関係は閉ざしているのに、世間体の扉は開けておく。
それが瀬川のせこい処世術だったのかも知れない。
兎も角、この脚本の瀬川教授の造形は、一度だって日本映画に
こんなこじらせキャラの人間は現れただろうか?
濱口竜介監督の脚本の特異性と文学性に驚くとともに、
心理学的分析にも舌を巻く。
第2話が強烈過ぎる。
《人間関係を築けない瀬川の孤立が際立った》
そして5年後になり、佐々木と菜緒は電車で再会する。
その後の展開も気になる・・・秀逸なラストである。

第1話
魔法(よりもっと不確か)
この話しは、男と女は理解しあえない存在だと示唆しているように思えた。
分かり合えた・・・と思うのは、いっときの錯覚で、
愛するとは、魔法よりも不確か・・・
愛してる・・・そういう錯覚を信じている人は何度でも、
失敗る(しくじる)だろう、と思う。

第3話
このお話は、まったく1、2話と真逆。
人と人は分かり合える・・・
信じるに足るモノであると示してくれる。
勘違いで出逢った、まったく見ず知らずの中年女性2人が、
高校時代の友達との交流を懐かしみ、
家族より本音を話せる親友になる話し。
それにしても仙台駅の上りエスカレーターと下りエスカレーターの
演出には思わず笑った。
この3話は、実に説得力がある。
(インターネットが遮断した・・みたいな設定はあまり効果を感じなかった)

1、2話の登場人物より信頼できるのは何故だろう?
ちゃんと生活している大人は、人間としてホンモノなのか?
それとも分かり合える人とは、分かり合える。
分かり合えない人とは、
決して分かり合えない事なのか。

「偶然と想像」
この相性の悪そうな言葉から、かくも想像的な映画を生む
濱口竜介監督の手腕に、唸らせられました。

琥珀糖
CBさんのコメント
2022年12月13日

俺はやはり、第1話の主人公(女性)がもっとも怖いです。そんなストレートに情熱ぶつけられたら、壊れちゃう、とビビりました。現実はモテないんだから、そんな心配する必要、全くないのに。(笑)
スマホから書いたので文字数制限で2つになっちゃって失礼。

CB
CBさんのコメント
2022年12月13日

観られたんですね。よかった。

第2話は、俺は最後はこの "この上なく生きにくい教授" と彼女が深いところで共感しあうという結末にびっくり! でした。どんだけすごい脚本なん!? と思わず知りもしない関西弁に。 そしてこの話もまた、共感する登場人物は一人もいない、という… いや、まこと不思議な映画です。

CB