劇場公開日 2021年12月17日

「言葉の「間」に感嘆と恐ろしさを感じる一作。」偶然と想像 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5言葉の「間」に感嘆と恐ろしさを感じる一作。

2022年4月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

第94回アカデミー賞授賞式で、見事国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督が、『ドライブ・マイ・カー』の前から製作していた短編作品。

表題通り、「偶然」と「想像」が生み出す3つの物語が語られていく、という、内容ではあるんだけど、しかしこれらの要素の絡み方は観客の予想を大きく超えており、終始驚きの連続です。そう言いつつも、どの挿話も話としては何気ない日常生活の延長のようでもあり、特に大がかりな仕掛けが用意されているわけではありません。だからこそ話の筋の巧みさ自体が鑑賞の牽引力となっていきます。

加えて、発話の間に差し挟まれる「間」が作品の緊張感を維持する上で大きな役割を果たしています。相手からの問いかけに少し間が空くことで生じる気まずさ、あるいは被せ気味に喋ることによる何らかの意図のほのめかし…、こういった間の長短は確実に計算されて差し込まれており、さらにこの「間」の存在感は、作中の重要人物の声の抑揚を意図的に抑える、という演出により、さらに際立ちます。

『ドライブ・マイ・カー』においても、舞台監督が台本読みの際に役者に一切の感情を消して台詞を読むように求める場面があり、その意図するところを鑑賞中は理解できなかったのですが、本作によってその答え合わせができたように思いました。

映像的にはその場の光源を主照明として用いているため、自然かつ目立たない画面作りとなっていますが、それでも場面で鍵となる人物を浮かび上がらせる計算された照明と空間設計の巧みさには目を見張るものがあります。カメラは基本的にあまり動かず映像的な主張を非常に抑制しているのですが、ここぞという場面で急にアップになることもあり、ここでも「作為」を際立たせるための自然風演出の思想が一貫していることを実感しました。

yui