「愛・性・人生をめぐる空虚な会話劇に寄り添えるかどうか」偶然と想像 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
愛・性・人生をめぐる空虚な会話劇に寄り添えるかどうか
濱口竜介監督の前作「ドライブ・マイ・カー」では演劇要素がかなりの比重を占めていた。主人公が演出家として台本の読み合わせを行っているとき、参加している俳優らに「感情を込めずに台詞を読む」よう指示する。
本作「偶然と想像」でも、オムニバス3編の登場人物らはおおむね抑揚の少ない、わりと平板な口調で淡々と会話する。あるいは朗読する。それはたとえば一昔前の小劇場演劇、特に「静かな演劇」と呼ばれた演出スタイルにおける発話を思い出させる。3つめの「もう一度」で、2人の女性が途中から想像をはたらかせて“ロールプレイ”するくだりなどは、まるでエチュード(即興劇)のよう。濱口監督は演劇要素を巧みに取り込み、いわゆる映画的にリアルな会話とはまた異なる会話劇のメソッドを確立したのだと思う。
しかしそうした感情を抑えた、淡々と発せられる言葉から、人物たちのどこか空虚な内面が浮かび上がる感じも否めない。確かに各編の“偶然”は意外性があり、ストーリーの展開も面白いが、都市生活者たちが営む愛、性、人生の空虚さに対する批評なのだろうか。そんな会話劇を繰り広げる人物たちに寄り添えるか否かで、本作を心から楽しめるかどうかが分かれるのだろう。
コメントする