劇場公開日 2023年2月3日

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「部屋の暗がりなど細部にこだわった映像も見事で、全編に渡って、殺気と緊迫感に包まれていたのです。最後までどっぷりと物語に浸れました。」仕掛人・藤枝梅安 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5部屋の暗がりなど細部にこだわった映像も見事で、全編に渡って、殺気と緊迫感に包まれていたのです。最後までどっぷりと物語に浸れました。

2023年2月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 普段は腕の良い江戸の鍼医者だが、実は悪人を葬るすご腕の。仕掛人”でもある。藤枝梅安。テレビドラマや映画で数々の名優が演じてきたキャラクターに、豊川悦司が新たな命を吹き込んだ。紛れもなく、当たり役である。

 品川台町の藤枝梅安(豊川悦司)にはふたつの顔がありました。腕の良い鍼医者の表の顔と、“蔓(つる)”と呼ばれる裏稼業の元締から金をもらって、生かしておいては為にならない奴らを 闇に葬る冷酷な“仕掛人”の裏の顔だったのです。

 ある晩、仕掛の後、仕掛人でもある楊枝作りの職人・彦次郎(片岡愛之助)の家に泊った梅安は、帰り道、浪人・石川友五郎(早乙女太一)が刺客を斬り捨てる場面を目撃します。刺客が死んだことを確かめ、医者が出る幕ではないと悠然と立ち去る梅安を、浪人はにらみつけていました。その後、梅安は蔓である羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から料理屋・万七の内儀おみの(天海祐希)の仕掛を依頼されます。実は三年前、万七の前の女房おしずを仕掛けたのは他ならぬ梅安だったのです。

 梅安は、万七の女中おもん(菅野美穂)と深い仲になり、店の内情を聞き出す。おもんの話では、おしずの死後、おみのが内儀になってから、古参の奉公人たちが次々と去り、店の評判は落ちているのに儲けだけはあるというのです。おみのは店に見栄えのいい娘を女中として雇い入れ、客をとらせているのでした。

 おしず殺しの依頼人はおみのなのか?...。殺しの起り(依頼人)の身元を探るのは、仕掛人の掟に反すると知りながら、梅安は三年前のいきさつを知りたいと思い始めました。そして、初めておみのの顔を見た梅安は息を吞むのです。それは梅安に暗い身の上を思い出させる対面だったのです...。

 仕掛人を雇う。蔓へ依頼人を指す。起り”など、原作者の池波正太郎による造語の説明がそれとなく入ります。さらにVFX(視覚効果)の活用により再現された江戸の街並みや、梅安は鍼、彦次郎は吹き矢で人を籾めるシーンのリアリティーもすさまじかったです。 石川友五郎が大勢の刺客に囲まれたとき見せる、殺陣のシーンも、従来のチャンバラ時代劇とは違って、ヨレヨレになりつつも紙一重で相手の剣から逃れて、必死で斬り殺すという大変リアルなものでした。部屋の暗がりなど細部にこだわった映像も見事で、全編に渡って、殺気と緊迫感に包まれていたのです。最後までどっぷりと物語に浸れました。
 これならこのシリーズや時代劇になじみがない人でも、違和感なく世界観に入り込めるはずです。

 本作では、皆さんがイメージしがちな必殺シリーズでは、考えられないことが起こります。
 原作をご存じなら、幼い頃に生き別れた妹をこともあろうにも殺しの依頼を受けて殺してしまうのです。妹であることを知ったうえで。梅安は、いったん引き受けた仕掛は、絶対に遂行するという仕掛け人の掟を、冷徹に顔色一つ変えることなく貫徹させるのです。 では梅安は鬼なような男だったのか?いいえ、妹を殺したあとは幼い時の妹の思い出がよぎり、人としての悲しみの表情をみせてグッときました。そんな梅安の表の顔と裏の顔の落差が本作の一番の魅力でしょう。

 豊川が演じる梅安は優しさの一方で冷酷さ、そして男の色気も醸し出します。彦次郎と2人きりで会話する場面が多いのですが、言葉の端々から揺るがない信頼関係が伝わってきます。4月には第2作が公開予定です。エンドロール後には、第2作につながる京への二人旅の途中がわりと長く描かれました。

流山の小地蔵