「イオンエンターテイメントシネマからのシネフィルへのアンサー的作品」愛と闇の物語 sweet back mantraさんの映画レビュー(感想・評価)
イオンエンターテイメントシネマからのシネフィルへのアンサー的作品
私はレオンやアメリ、バファロー’66を映画館で見ていない。
90年~00年初頭、郊外で暮らしていた私はミニシアターとは無縁であった。
中学、高校生にとっては東京に行くという行為はハードルが高く、東京は別世界であった。
映画雑誌で東京で上映される作品をチェックして、
地元のTSUTAYAでレンタルされるのを待っていた。
東京は私の現実とは無縁で想像の対象でしかない。
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私はいつものように家の近くにあるイオンシネマの上映スケジュールを眺めてい
ると暗めな洋画「愛と闇の物語」を発見、しかもナタリー・ポートマンが監督しているではないか。
私にとってナタリー・ポートマンといえば「抱きたいカンケイ」一択である(昨年、ラブコメをバカのように観まくった時期に麻痺した頭でも面白かったからだ)。これはぜひとも劇場で観たい。ちょっと高尚な映画っぽいから本腰を入れて前情報を仕入れるために公式サイトへ。
安心感。
アクセス先はこの作品のレビューをチェックしているようなシネフィルならお馴染みの、イオンシネマ配給作品特有のあのサイトであった。
「うちはサイト作成業者じゃねんだよ」と、
簡素なサイトを有象無象なインターネット世界にアップロードする姿勢。
それはコストカットと過剰な広告へのアンチテーゼで一粒で二度おいしい姿勢。
俺は広告を見たいんじゃない、いい映画を見たいんだと再認識。
液晶モニターの上下左右に表示される広告は邪魔でしかない。
自分で探って掘ってサイトへたどり着く映画好きに向けたサイト。
そしてその簡素さは高齢化社会への目配りともいえる。
でもやっぱり公式サイトだけでは情報が少ない。
なぜ2015年製作をいま公開?なぜか私だけが知っている秘密の映画っぽくてニンマリしてしまう。しかも集まった観客は初老4人。おいっ、マチルダボブをしていた女子、レオンとSWでチヤホヤ男子、この状況どう考えればいいんだ!?イオンのたまごサンドイッチはおいしいぞ!!
さて映画が始まり、冒頭に会社のロゴが流される。あまり見慣れないロゴと多さにこの映画の苦難を察する。いや、詳しくは知らないけど。
ナタリー・ポートマンって日本語で文字起こしすると、私の感覚ではポストマンとかポート(港)とかを連想して、中欧の石畳をなんとなく関連付けしてしまう。
だからエルサレムの石造りの家に彼女の黒髪が映える。そう、この映画はロケーションがいいのだ。
木々の緑と岩の景色は幻想的、石壁ばかりの街は圧迫的、砂と僅かに生えている草と岩の景色は荒廃感、これがエルサレムなのかと妙に納得がいく。
また、衣装も素朴だけれども丈夫そうで温もりを感じて人の営みを強く感じるのも良い。カット割りはガチャガチャしておらず、演出のせいなのかフェリーニの牧歌的な雰囲気もふと感じた。
ファニアが静かに苦しんでいく姿は色々と考えさせられ、数ある「想像でつらい現実を乗り越える系」の映画(テリーギリアム作品など)の中でもこの映画は少し違う。結果的に想像がマイナスに働くのである。そう、つらい現実を乗り越えられないのである。ファニアは物語を想像することで現実の苦しみがより増してしまい、子供がファニアの光だと自分自身でも理解していてもその光をすがりきれずにどんどん不安定になっていく。主人公は母親の想像の結末を変えてあげたいけど、閉ざされた想像なのでどうにもすることができない。想像がマイナスに働いてしまうのはエルサレムという地域や民族的歴史、現状の生活環境もあるのだろうけれども、ファニア自身が持って生まれた志向なのかとも思う。大人になりきれなかったのだろうか。なににせよ子供の成長にも影を落とす。
物語や想像の力が原動力のひとつである映画というメディアで、物語や想像による悲劇を表現するというのは芯からのネガティブさを感じられる映画であった。
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私はエンドロールを眺めながら上記の感想を抱きつつ映画館について考えた。
現在はネットフリックスなどのオリジナルコンテンツやサブスクによる配信サービスが幅を利かせ、かつ新型コロナウイルスによって劇場は疲弊している。
また、一般的に郊外に展開されるモールはしばしば批判される。
地域性が失われて文化が画一化される。確かにそうだ。
しかしイオンシネマは「うるせぇよ」とは言わない、大人だから。
イオンシネマは行動で示す。
芯からのネガティブさを感じられる映画を広告なしで配給。
イオンシネマは届ける、独自の映画文化を。
もしできるならば、高校生の頃の私にこんな映画を郊外の劇場で観せてあげたい。そしてあの頃想像していた大人になった自分自身の生活とは全く違ったものになっているよと伝えたい。
シネフィルの熱い視線を集めるイオンシネマ、これからも期待しています。