「世間は狂気に溢れているの?」アオラレ odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
世間は狂気に溢れているの?
あおり運転の恐怖はスピルバーグの「激突(1971)」と似たシチュエーション、親子で孤立した車内で恐怖に怯えるところは「タイムリミット・見知らぬ影(2018)」にも似た臭い。映画の冒頭から渋滞、失業、喧嘩のニュース、増えるスマホのながら運転やドライバーどうしのもめごと、ストレスからキレる人々の増加と警官の人員不足のナレーション。確かにいつどこで斯様なトラブルに巻き込まれても不思議はないと思わせられるからお膳立ては十分。
ただ、平凡な日常にある恐怖がテーマなら、アバンタイトルの放火シーンでラッセルクロウ演じる男を明らかな凶悪犯罪者と見せつけるのは拙速でしょう。
普通の中年男に絡まれた位から出発して徐々に男の異常性が明らかになってゆく方がスリラーとしては定石ですね。なまじ名のある俳優さんを使うと大げさな見せ場づくりをしてしまう失敗例にも思えます。
離婚や解雇など不遇な人生だったとしても人殺しの口実にはならないことは自明ですが実際にこの種のテロに似た無差別殺人事件が後を絶たないのは嘆かわしい限りです。
本作の変っているのは凶器が銃器ではなく車や可燃性オイル、鈍器、ナイフ、ハサミなど日常の道具が使われるところ、トランプが観たら、「だから皆、銃を持て!」と持論を叫ぶでしょう。
社会の落伍者が犯罪者になるパターンは「ジョーカー(2019)」でも伺われますが落としどころは心を病んだ異常者扱いが相場、結局のところ、暴力には暴力で対抗するしかない世の中では文明社会が聴いて呆れます。
脱線ですが、バイオレンスもエンターテインメントという概念から離れられない映画界、新しい世代の映画人はどんな処方箋を講じるのか見せて欲しいものです・・。