「アメリカ人はどんな人が乗っているかわからないから、あまりクラクションは鳴らさないと聞いたけど、違うのかな?」アオラレ Push6700さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカ人はどんな人が乗っているかわからないから、あまりクラクションは鳴らさないと聞いたけど、違うのかな?
この映画はスピルバーグの『激突』みたいなパニック映画なんだろうと思って、見てみたけれど、内容はかなり違っていた。
でも期待外れという訳でもなくて、逆に脚本書いた人の実力に驚いた。
一見訳の分からないどうしようもないB級のサイコホラーに見えるけど、そうでもないような気がする。
この映画の主人公のおじさんはどうしようもない気違いで、何を考えているのかわからない感じでもなく、そんなにサイコでもないと思う。
というかむしろこのおじさんの気持ちがよくわかった。
作り話だけれど、アメリカ人のおじさんの気持ちを日本人の自分がわかるということは、たぶんそれなりの真実に近いことなのかなと思った。
この映画はB級のサイコホラーとして見るより、道を踏み外した普通のおじさんの話として見る方が面白いと思う。
『フォーリング・ダウン』という同じような映画があったけど、あれは怒ってブチ切れたあげく、やりたいけど普段できないようなことを全部やってしまったみたいな感じだったけど、これはもう少し冷静な感じがする。
人間は自分中心の世界でしか生きられないから、他人が邪魔になることはしょちゅうあるし、自分の理屈で動いていて、基本的に他人などどうなってもかまわない。
運転していて、失礼で危険な自分中心の運転をする人に文句を言って、謝らせたいと思ったことはあるし、渋滞にはまって、人が多すぎるからもっと減らすべきだと思ったこともある。
自分の前をトロトロ走ったり、中々スタートしない車に対して、思いっきりクラクションを鳴らしたいと思ったこともしょっちゅうある。
それでも自分から実際に具体的な行動をとることはまずない。
なぜかというと車は安全に目的地までいくために乗っているので、トラブルになったらその目的が達成できないので我慢しているから。
今は厳しくなったけど、昔はアオリ運転など当たり前で、他人にやられたこともあるけど「お前が悪い、お前のせいだ」と言われても、「それはあなたの感想ですよね?」としか言いようがない。
そういうことを考えるとなんとなく運転って人生の縮図と言えなくもない。
その辺に注目してこの映画を作ったんだろうなと思った。
このおじさんは映画の冒頭で夫婦みたいな人を殺して、その人の家に火をつけている。
なんの説明もなかったけど、たぶん別れた奥さんとその旦那なんだろうなと思った。
この時点でおじさんの人生は行き止まりのデッドエンドで、目的地がなくなり、もう人生という路上で我慢する必要はなくなった。
そこに相手方の女性の乱暴なクラクションで、離婚やら解雇やらいろいろひどい目にあって、我慢し続けてきたことが一気に爆発したということじゃないかな?
こんなところで、女性相手に爆発してないで、今までおじさんをひどい目にあわせてきた人を殺しにいけばいいじゃないかと思ったけど、それでは当たり前だし、きりがないから、いろいろひどい目にあわされてきた世間のやつらを怖がらせて爪痕を残してやろうということにしたような感じだった。
ターゲットにされた相手の女性もいい迷惑だけど、かなり荒れた生活してるし、なんとなく見てると自業自得という感じもしなくもない。
結局エゴとエゴのぶつかり合いで、他人を巻き込んだ大事故になってしまったということかもしれない。
でもアメリカ人はどんな人が乗っているかわからないから、あまりクラクションは鳴らさないと聞いたけど、違うのかな?