劇場公開日 2021年5月28日

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「本作品のラストシーンがハリウッドの限界」アオラレ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0本作品のラストシーンがハリウッドの限界

2021年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 マシュー・マコノヒーが主演した「ジェントルメン」のレビューにも書いたが、最近のアメリカ映画にはapologizeという言葉がよく出てくる。本作品ではapologizeが重要なキーワードとなる。アメリカでは格差が広がりすぎて、もはやアメリカンドリームは存在せず、貧乏人同士の足の引っ張り合いとなっている。小さなことですぐに腹を立てられて銃で撃たれかねないから、自分が悪くなくてもすぐに謝る。謝ることが生き延びるための一番の態度なのだ。

 アメリカの道路はクラクションが鳴りまくっているイメージだったが、それは映画やドラマの中だけなのだろうか。日本のドライバーはかなり静かで、クラクションを鳴らしまくるドライバーには遭遇したことがない。そもそも当方はクラクションを鳴らしたことが一度もない。青信号でもたもたして鳴らされたことは何度かあるが、こちらからは鳴らさない。逆走の車が正面から突っ込んできて逃げ場がないときにしか鳴らさないと思う。
 そもそも周囲のドライバーに腹を立てるのは、自分と同等の運転技術と常識を持っていると考えるからである。周りのドライバーは初心者かペーパードライバーばかりでとにかく運転が下手で、それに常識もない。というか運転に精一杯で周囲に気を遣う余裕が一切ない。そういう人ばかりだと思っていれば腹も立たないし、クラクションを鳴らすこともない。相手がクラクションを鳴らすのは焦っているか、慌てていて間違えたのだ。気にすることはない。運転するときは無理をしない、滅多に追い越さない、車間距離は十分に取る、後ろから突っ込まれないように朝まずめや黄昏時はテールライトをつける。霧の中や雪の道路は運転しない。

 本作品のヒロインはなかなか感じの悪いおばさんである。息子は母親をあまり信用していない。ラッセル・クロウ演じるあおり犯に対して思わず窓を開けてしまったのは息子の失敗だが、そのあとで謝ったほうがいいという息子の賢明な忠告を無視して、見るからに危険なあおり運転男に喧嘩を売ってしまった。この女優はなかなか上手である。
 映画だから予定調和的なラストになってしまったが、リアルにこういう男がいたら、ヒロインを待ち受ける運命は逆だろうと思う。ヒロインの弟にしたのと同じことをするのだ。まずヒロインと子供をぶちのめして気絶させてから、ヒロインを椅子に縛り付ける。水をかけて目を覚ましたところで、目の前で子供を絞め殺し、ついでに包丁で首を切り落とす。ヒロインが絶叫すると顔を殴って気絶させる。そして二度と運転ができないように手の指を全部折る。痛みで目覚めたヒロインの絶叫をあとに、悠然と立ち去る。
 そんな風に想像していたのだが、安易なラストになってしまって少しがっかりした。とはいっても当方の想像通りのラストシーンにしてしまったら、アメリカの観客からブーイングの嵐になるのは間違いない。アメリカ人は単純で勧善懲悪が好きなのだ。だから本作品のラストシーンがハリウッドの限界だと思う。

耶馬英彦