「誠実に生きるということ」この茫漠たる荒野で ララリレロさんの映画レビュー(感想・評価)
誠実に生きるということ
1870年、南北戦争終結の5年後。
トム・ハンクス演じる退役南軍大尉ジェファーソン・キッドはアメリカ南部各地を巡って10セントで新聞を読んで聴かせ、生計を立てています。
ある日、キッド元大尉は馬車が襲われ御者が木に吊るされている現場に遭遇し、先住民の服を着た少女ジョハンナをみつけます。彼女は先住民カイオワ族に家族を殺され、先住民に
育てられていました。しかし、その先住民の家族も軍によって殺され、身寄りがなかったのです。やむなく、元大尉は遠く離れた彼女の伯母夫婦が住む家まで送っていくことになります。
退役軍人と白人先住民少女のロードムービーです。言葉が通じないうえに、長旅の途中で起こる様々な苦労や危機を通じて信頼しあうようになりますが、異民族間の対立や南北戦争の恨みが生々しく残っています。白人と黒人の差別も際立っている南部だけに、その時代背景の中で、老人と少女がまさに「茫漠たる荒野」を行くことの苦難は計り知れません。
伯母夫婦の元へ送り届けた元大尉が自宅に戻ると、妻はすでに病死していました。ただひとりの家族である妻を失って元大尉自身は少女の存在を身近に感じます。
元大尉は彼女の伯母夫婦の元へ駆けつけます。彼女は伯母夫婦とは打ち解けることができず、また伯母たちも手を焼いていました。元大尉は彼女を引き取り、新聞を読み聞かせる旅を共にするようになります。
茫漠とした荒野は人生そのものです。その荒野を渡っていく元大尉の生き方が描かれています。少女を見捨てることができず、身内に送り届けることを引き受けることがまさに彼の人生です。結果的に彼女が新たな家族となります。時代は変転しますが、いつの時代にも生き辛い荒野(現実)が横たわっています。その荒野を生きていくために、元大尉の選択がひとつの道しるべになるのかもしれません。