「ブラックマンタ大好き」アクアマン 失われた王国 ハッカ飴1/2さんの映画レビュー(感想・評価)
ブラックマンタ大好き
ジョニー・デップとの裁判で大幅カットになったとされたメラ役アンバー・ハードの出番が想像していたよりは多いし見せ場もあったとか、ネレウス王と甲殻類の王の新たな一面が知れたとか、急激な温暖化によりアトランティスで広まった「疫病」ってコロナの暗示だよなとかゴキブリバーガーとかそんなものは他の人に任せてブラックマンタを語りたい。
今回で終わるDCEUの数多のヴィランの中でデヴィッド・ケイン/ブラックマンタが一番大好き。彼の動機としてよく言われてしまうのは「逆恨み」。実際私も「まあそうだよな」と思い、「でもスーツ姿や戦い方がかっこいいからオッケー(このスーツも"アトランティスの技術"という地上人であるマンタにとって未知であり手に余るものであるはずのソレを解析し、アップグレードして自分のものにしてしまうという前作で描かれた過程もギリシャ神話において天界から炎を盗んで人間に与えたプロメテウスを彷彿とさせる痺れるもの)程度に思っていたのだが、ネット上で見かけたある意見で変わった。
「アクアマンはブラックマンタと出会った時点ではヒーローとして未熟だった。真のヒーローならケイン親子も悪人だからと見捨てずに助けるべきだったのにそうしなかった」、これを見てブラックマンタが大好きになった。
そして今回の彼も物凄くかっこよかった。本作は前作から4年経っているという設定だが、4年間新たな仲間達と共にひたすら打倒アクアマンの為に動き続ける。その根源にあるのは父を見殺しにしたアクアマンへの復讐。これぞ初志貫徹。そしてその為に古代兵器まで操る行動力と技術力、南極まで行き結果が空振りでも諦めない忍耐力と精神力。復讐の為なら"失われた王国"の怨念の塊による自身の身体の乗っ取りも受け入れ(個人の解釈)、赤ん坊や地球すら手にかけようとする覚悟と意志の強さ。本当に素晴らしい。それしか言えない(実際、ブラックマンタはコミックスでアクアマンとメラの間にできた赤ん坊を殺している)。
これも個人的な解釈になってしまうが、前作ラストで彼を助けた海洋生物学者スティーブン・シンとの関係も興味深い。アクアマンへの復讐の為に利用しているに過ぎないかもしれない。だが4年も共に過ごした上に命の恩人ともあれば、それなりに信頼関係もできていたはず。シン博士が計画に難色を示し離反を仄めかした時には「それでも構わない(ただし巨大生物と巨大植物だらけと化した魔のジャングルから安全に脱出できるなら。君についていくよと言えば『そりゃそうだ』)」としている。これはもうズッ友、ズッ友が計画から降りたいと言うなら仕方ない、とでも言いたげだ。だから赤ん坊の代わりに爆弾入りのバッグを渡した彼を背後から攻撃した際は「信じていたのに!」というブラックマンタの感情すら想像できてしまう。
ブラックマンタは死に際すらかっこよく、美しかった。
ブラックマンタというヴィランの始まりを思い出してほしい。彼はアクアマンに「助けてくれ!!見殺しはないだろう!?」と救いを求めたが、拒まれた。そして父親が死に、アクアマンに復讐を誓うに至った。これが始まり。
そして「終わり」はどうだ。地割れに巻き込まれ、落ちそうになるブラックマンタ。そこへかつて自分と父親を見捨てた憎きアクアマンが手を伸ばす。あの時差し伸べられるべきだった救いの手だ。しかし、彼はそれを………。
「ナメんな」
その救いの手を拒み、落下していく。
救いを拒まれた男が、救いを拒んで死ぬ。
なんという皮肉、なんという因果。
これほど美しい悪役の最期があるだろうか。
本当に、本当に、私はブラックマンタが大好きだ。ジェームズ・ワン監督、演じたヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、吹き替え声優の濱野大輝に無限の感謝を。
ここまでブラックマンタ全開の感想になったが勿論アクアマンも好きだ。
演じたジェイソン・モモアはジェームズ・ガンとピーター・サフランによる新しい体制への移行に伴うリキャスト=アクアマン役の降板が噂されている。本人は否定しているが、最終的にアトランティスの存在を地上の人々に明かし、陸と海で手と手を取り合っていこうとするアクアマンの物語の一つの節目となるあのラストなら仮に本当にリキャストとなっても納得はできると個人的には思った。
もしもDCUでブラックマンタが再び登場することがあるならば、役者も設定も何もかも一新した新しいブラックマンタとして登場してほしい。
それくらいDCEUのブラックマンタが大好きだ。彼の最期が美しかったのだ。