「最後の監督&主演作かと」クライ・マッチョ parsifalさんの映画レビュー(感想・評価)
最後の監督&主演作かと
お年寄りの姿勢でヨタヨタと歩く姿をみて、さすがに歳をとったなあと。でも、90歳を越えても、なお自分でも演じることができる原作を選んで監督、主演を務めたのだろうと。これが最後の監督・主演の映画になるのではと思った。彼の原点というべき「ローハイド」のカウボーイに回帰したかったのだろう。カウボーイ→西部劇→荒くれ者→刑事物をだどって、強い男「マッチョ」を演じ続けてきたイーストウッドが、晩年になって大切にしている信条を守るのが真のマッチョという境地に辿り着いたのではないか。見落とされがちな人たちの中にある人間としての素晴らしさに気づき、それらを守ろうとする姿が、ゆったりとしたロードムービーの中で描かれている。
90歳を越えて演じるにしても、できることは限られてしまう。彼の得意とするアクションシーンは、もう難しいだろう。荒馬を乗りこなすシーンも落馬したら大事だから代役だったろうし、敵と格闘したり銃撃するシーンもさすがにあの動作スピードでは厳しい。「運び屋」「クライマッチョ」ときて、それ以外にどんな映画があるだろうか。冒頭、友人とのダイアローグのシーンで、友人が仕事を流してくれて救ってくれたというセリフがあるが、この映画の話がもたらされた時のイーストウッドの本音ではなかろうか。
今回の作品には、自分の今までの生き方を振り返って、大切にしてきたエッセンスを詰め込みたかったのではないか。悪ガキというレッテルを貼られた友人の息子、女やもめで残された子供たちの面倒を見ているレストランの女主人、そういった人たちとの嘘のない触れ合いを通して、人として大切なものを守ろうとする姿を見せたかったのでは。そして、いつでも自分のタイプの女の人には傍にいてほしい。それがマッチョだと。
若い頃は、血気盛んで、暴力、理不尽、女、酒、反骨のエネルギーが有り余っていたけれど、それらの欲が全て枯れて、大切なものだけを守って生きていこうって。今までの作品からの流れを見て、そんなことを感じた。これが、最後の監督&主演作と自分は思う。