「『マークスマン』と期せずして師弟競作となった一作。」クライ・マッチョ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
『マークスマン』と期せずして師弟競作となった一作。
メキシコに住んでいた少年を米国に移送する男の物語…、って、最近どこかで似たような話があったような?と思ったら、リーアム・ニーソン主演『マークスマン』がそうでした。『マークスマン』の監督、ロバート・ローレンツはイーストウッドと繋がりが深いようで(ローレンツ監督の初監督作品『人生の特等席』(2012)はイーストウッド主演)、なんでここまで企画が被ったのかなー、あえて同じような筋の映画を作って、師弟競作を打ち出そうとしたのかなー、と思ってました。実際は単なる偶然らしく、『クライ・マッチョ』の方は1991年には撮影を開始しているので、なんと30年越しの企画ということになります。その後出演俳優の問題などで長らく撮影は中断。2020年に入って撮影を再開したけど、さすが早撮りの名手イーストウッド、元々短い撮影期間を、予定より早く終わらせたようです。
イーストウッド監督は「あらすじ聞いただけではどう面白くなるのか見当もつかない」話を、現代的な問題意識を取り込みつつ超絶面白い映画に仕上げる名手で、その手腕は本作でも健在。
『マークスマン』のように派手な銃撃戦もないし、ロデオの名手という設定だけどほとんどロデオのシーンがないにもかかわらず、最後まで牽引力を失わない語り口はさすがです。ただメキシコで特に意味もなく女性がイーストウッドに色目を使ったりと、ちょっと(今まで以上に)イーストウッド監督の願望を反映しすぎでは…、と思うところもちらほら。『グラン・トリノ』(2008)で俳優としての自らを総決算したんじゃないんかーい、と思わなくもないけど、お元気である限り「イーストウッド」は決して手放さないんでしょうねー。次回はドリトル先生役かな?
「マッチョ(男らしさ)」を題名に据えているわけだから、男性性の問題について何らかの相対化や批判が込められているのかな、と思ったら、そんな形而上学的な問いには特に触れず、実に意外な用法。