「イーストウッドは老いさえ楽しんでいる」クライ・マッチョ jollyjokerさんの映画レビュー(感想・評価)
イーストウッドは老いさえ楽しんでいる
・ピアノのつぶやくような調べ
・古いシボレーのピックアップトラックでの老いぼれた登場
・運転席の横顔
・ひょろりとした長身の体はより細く骨ばって、足取りもおぼつかない
・昼寝のシーンをはさみ、老いを強調さえする
・元々声量は少なく吐き捨てるようなセリフが一層際立つ
・これら一連の表現で、老いを認め受容する潔さ
オープニングで「あぁ、こういうことか」と思い知る。
しかしイーストウッドは老いさえ楽しんでいた。
本作は、我々がイーストウッドに期待する強さには肩透かしを食うが、
・大地を俯瞰するカメラ
・人間関係を築き信頼していく過程
・優しさや本当の強さ
といったものは十分に描かれている。
また、登場人物が少ないために、相手役に多弁させることでストーリーを補完していく簡潔さで変化のない風景にテンポを持たせた。
ただし、ラファと母親の演技がありきたりでやや鼻白む。
反抗期の少年があまりに素直で拍子抜けするし、ステレオタイプな母親とその取り巻きも月並み。
一方、光っているのはカフェの女主人マルタ。大きな口、くっきりした目元と存在感で、老人イーストウッドに息を吹き込んだ。本当のマッチョはマルタなのかもしれない。
また、いつもながら怪しげな男を演らせるとピカイチのヨーカムもいい仕事をした。
イーストウッド作品に一貫する「本当の強さ」「信頼」といったものはあますことなく現れており、陳腐なストーリーではあるが、ファンとしては見ておくべきだろう。子どもの未来と世代交代を匂わせる佳作だ。
これを最後の作品にしてほしくない。