劇場公開日 2021年11月20日

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「このような体験をした方の話を聞くほかしかない」ユダヤ人の私 redirさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0このような体験をした方の話を聞くほかしかない

2022年1月10日
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ナチス統治の最中にも、アウシュビッツの実態は、赤十字のような団体が訪問したりギフトボックスのような救援物資を送るなど、存在を全く知らなかったわけではないが、実際のところどんなことの行われていたのかわからないということになっていた。本作品で、マルコは、
事態は予想をはるかに超えたものとなった。
も語っているように、誰もが想像できる範囲を超えていたからそうであったのかもしれない。これだけの調査、証言、考察がなされ、まだ100年も経っていないのに、その頃よりはるかに精緻な情報を民間人でさえ知ろうと思えば手に入れることができる今でも、新疆ウイグル自治区の強制収容所は教育機関だとして、まさに同じことが繰り返され、事実なのかどうかわからない、真相はわからないということで、ほぼ何もなされていないも同然であることに、そのことより驚きと焦燥を感じるばかり。
奇しくも、マルコは苦難の時を乗り越え100歳まで命を繋いだ、彼が回想し少しでも良い事があったとしたら、数人に未来を、未来の希望を与えられたことだと回想。マルコが少年時代から培った生き延びるための知恵と方便をここでも駆使して解放された収容者の仲間をパレスチナ に送り出す。途中挟まれるドキュメンタリー映像で意気揚々と地中海渡りパレスチナ を目指す若者たち。彼らの苦難があり証人も証言も体験もなにもかもある同じ時代同じ世紀に何故パレスチナ はイスラエルとなり苦難を経験し欧州をさまよった人達がパレスチナ の人たちに同じことをするのか、といういつものやるせない問題にぶち当たりため息が出る。
オーストリアがいかにナチスと友好的に手を組み戦後もナチス残党を優遇したかそのことを糾弾し訴えてきたという点もよかった。私も小さい時に繰り返し見た、サウンドオブミュージックのあらすじを思い出せば驚くことでもないが。
マルコには解放されてからずっとリーダーとなり、仲間を助け語り講演し、今100歳を超えても未だ語り尽くしてない、まだ話し足りることはないという、オープニングとエンディングの言葉が真実であり、我々は、このような体験を不幸にもされた方が悲しみ恐怖悔しさありとあらゆる感情や無感情や、そういうものを絞り出して語ってくださる話に耳を傾けて、窪んだ目その眼差しを受けることをいかなる人もするべきだ、とせつに思う。聞くしかないし、観るしかない映画である。、

redir