劇場公開日 2022年6月17日

「その縁側は、彼女らをメタモルフォーゼする。」メタモルフォーゼの縁側 サンプルHDさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5その縁側は、彼女らをメタモルフォーゼする。

2023年7月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

笑える

幸せ

漫画を一巻だけ読んだことがあり、かなり面白かった記憶があるので見た。映画館にはいく機会がなかったのでamazon primeで視聴。
かなりいい、心があったまるような、背中を押されるような感覚になる。
芦田愛菜はクラスでも目立たない引っ込み思案な性格の生徒、宮本信子は夫に先立たれ、家で小さな書道教室を営むおばあちゃん役。全く違う二人が出会い、変化をもたらしていくのだが、まさかのその出会い方がBL!!ただ、BL苦手だから見るのやめとこうかな、とか思う必要は全くない。あくまでメインは二人の関係性であり、それがすごくいい。言ってしまえばこの二人、世間からは隔絶されていると言えるだろう。芦田愛菜はクラスの人気者を遠巻きで見ているような生徒であり、宮本信子は小さな家で一人暮らし。その二人が互いにBLに惹かれる理由もなんとなくわかるのではないだろうか。BLとは、現実の世界であればマイノリティであり、彼らも世界から隔絶された人々である。それが物語の中であれば、堂々と、恋愛をしているのだ。しかもそれが書店の一部分を占めるほどの人気のコンテンツになっている。社会から隔絶された人々にとって、こんなにも勇気を与えてくれるものがあるだろうか。もしかしたら彼女らは、形こそ違えどBLというものの中に、自分の理想像を見つけたのかもしれない。また、そこで引用されているBL作品と、芦田愛菜が書く同人誌がまた良い。詳しくは書かないが、二人の関係性をうまく描写していて、泣きそうになってしまった。というかかなり泣いた。
最後に、私はどちらかといえば芦田愛菜のほうに年齢が近く、彼女の姿と高校時代から今にかけての自分を重ねることが多かった。進路志望書、受験、本当に自分のやりたいことは何か?と問う中でアイデンティティの葛藤は避けられない。そんな中、宮本信子と出会い、彼女の家の縁側で一緒に暮らすことでメタモルフォーゼを促し、本来の自分を発見する。また、途中の芦田愛菜の母の「我々小市民は~」という言葉もいい。好きなものを好きでいいんだ。そう思わせてくれる。ここの部分について、詳しくは「変態仮面」(2013)も観てみるといい。まさしく、変態(メタモルフォーゼ)であるので、青年期のアイデンティティの葛藤と重なる部分が多いと個人的には思った。話を戻すと、この場面を通じて、この映画でいう僕にとってのBL作品とは何か考えずにはいられなかった。それを肯定し、好きになれる日が来るといいなと思う。

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