「あの問題児軍団が帰ってきた✨ 井上先生……‼︎ …………… 話がくらいです……」THE FIRST SLAM DUNK たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
あの問題児軍団が帰ってきた✨ 井上先生……‼︎ …………… 話がくらいです……
1990〜96年まで「週刊少年ジャンプ」で連載、アニメ化もされた大人気バスケットボール漫画「SLUM DUNK」をアニメ映画化。
PG宮城リョータを主人公に据え、湘北高校最大の死闘を描く。
第46回 日本アカデミー賞において、最優秀アニメーション作品賞を受賞!
原作の発行部数は1億2000万部超!
超有名&超人気漫画がスクリーンで帰ってきたーーっ😭
興行収入は2023年3月現在で119億円を突破!!
韓国をはじめとしたアジア各国でも大ヒットしており、この「スラダン」旋風はまるで収まるところを知りません!
まず申し上げておきますと、私はスラダン直撃世代ではありません。物心ついた頃にはすでに連載は終了していたし、アニメもウチの地方では放送されていなかった。
とはいえ、スラムダンクの人気は連載終了で消滅するほどヤワなものではなく、後追いである自分たちのジェネレーションにも普通に浸透していた。
体育のバスケの時間では仙道のモノマネをするのが定番ネタだったし、渋すぎる牧の登場シーンはネタとして擦られまくってたっけ。
という訳で、もちろん自分も原作は既読。
原作漫画は星の数ほどあるスポーツ漫画の中でも、間違いなく史上最高傑作のうちの一つと言って差し支えないでしょう。
ちなみに自分の中では「スラダン」と「ピンポン」がスポーツ漫画界の二強。どちらも湘南が舞台の作品ですね😄
そんな思い入れのある漫画の映画化作品なのですが、実は鑑賞するつもりはなかった。
作品情報を公開までほとんど明かさないというセールス方法はなんだか鼻についたし、土壇場まで声優交代の件を隠していたのは旧作アニメファンに対して誠実な姿勢ではないと感じた。
また、3DCGアニメーションということも観る意欲が削がれた原因の一つ。日本のCGアニメはレベル低いですから…💦
そんなこんなでなんだか観る気がしなかったのだが、ここまで大絶賛の嵐が吹き荒れていると、流石に観ない訳にはいかないと、重い腰を上げて劇場へ。
結論から言うと………、評判通りの大傑作!!
3DCGアニメということでかなり警戒していたのだが、いざ観てみてビックリ!😳世界広しといえどもこれだけの作画力と演出力を持った作品はほとんどないんじゃないの!?
本作で描かれるのは、原作のクライマックスにあたる絶対王者・山王工業との大一番。
連載中に放送されていたテレビアニメ版は全国大会を待たずして打ち切りをくらってしまったので、この血戦が映像化されるのは今回が初めて。
何度も脳内で再生していたヤマオー戦のアニメが、まさか実現してしまうとは…。世の中何が起こるかわからない。
本作の作りはかなりハードコア。
原作のクライマックスエピソードをそっくりそのまま切り抜いて映像化しており、登場キャラクターの説明など、初心者向けのアプローチは最小限に留められている。
スラムダンクを全く知らない観客だと、キャラクターを把握するだけでも一苦労だったのではないだろうか。敵チームなんてみんな髪型ボウズだしね😅
とはいえ、本作は原作既読組だけに向かって制作された映画では無い。『THE FIRST』と冠していることからも分かるように、素人でも十分に楽しめるように一つのガイドラインが用意されている。
それは何かというと、宮城リョータというキャラクターの掘り下げ。原作では主人公・桜木花道の良き兄貴分といったポジションのキャラクターだったリョータだが、本作ではなんと主役に昇格!🎉
たとえスラダン初心者でも、リョータだけに着目して物語を追いかけていれば、おのずと作品全体の輪郭がハッキリしてくるはず。
原作通り桜木花道が主役だと、彼とバスケの出会いはすでに漫画で描かれているので物語が広げづらいだろうし、また描いたとしてもそれはただの原作の焼き直しになってしまいかねない。さらに桜木はかなりクセのあるキャラクターのため、初心者は少々の取っ付きづらさを感じることになるかも。
主人公交代というのはなかなかに大胆な策だったと思うが、ターゲットとなる観客層を広げるという意味ではかなりの好手だったのではないだろうか。
また、本作からはただ原作の1エピソードを映像化するという以上に、一本の映画として認められるような中身のある作品を目指す、という「ダンコたる決意」が感じられる。
本作の軸となるのはリョータの喪失と再生。
彼のエピソードと試合描写とを交互に描くことにより、彼がバスケをやり続ける意味、ひいては高校スポーツが存在する意義を観客に提示する。
この構造が非常に映画然としており、本作をただのスポーツアニメとは一線を画したものに押し上げているように思う。
大胆な構成には驚かされたが、本作における最大の見どころはなんと言っても試合描写の凄まじさ!!
名作と呼ばれるスポーツアニメは過去にもいくつかあった。しかし、それらのスポーツアニメは、心理描写は真に迫ったものであれ、スポーツ描写に関してはリアリティよりも漫画的ケレン味を重視していたように思う。
例えば『明日のジョー』や『はじめの一歩』といったボクシングアニメでは、ノーガードで打ち合ったり死の淵からゾンビのように蘇ったりする訳だが、本物のボクシングではまずこんなことはありえない。『刃牙』のような格闘技アニメでは、よりこの傾向は強まる。
何もこれが悪いと言っているのではなくて、従来のアニメではこれが当たり前だった。リアルよりもフィクションの方がエンタメ的には面白いというのは、恋愛であれビジネスであれ、全てにおいて言えることですよね。
しかし、本作ではここが従来のアニメと大きく異なる。
3DCGを駆使して描かれた試合場面は、まるで本物のバスケの試合を観ているかのよう。選手の体捌きはもちろんのこと、目線にまで気を配って描かれたリアルすぎるバスケ表現には脱帽するしかない。
このリアルさは身体描写のみならず、空間や時間の再現度の高さにも表れている。
旧アニメ版や『キャプテン翼』など、球技アニメにはついつい「そのコート何メートルあるんだよ!?」と突っ込んでしまいたくなる描写が多々見受けられる。1話丸ごとほとんどドリブルしてるだけとか、スーパープレイをした時に時間が止まったりとかは、まぁスポーツアニメあるあるですよね。とはいえそういった出鱈目がスポーツアニメ特有の面白みになっていたこともまた事実なのですが…。
本作ではそういった誤魔化しを極力排除。多少の嘘はあるものの、基本的には28m×15m、前後半あわせて40分というリアルな尺度を忠実に再現している。
空間や時間を忠実に再現してしまうと、嘘があるからこそ生まれる熱さとか迫力が削がれてしまうのではないか、と思ってしまうものだが、本作のバスケ描写の緊張感や圧迫感は半端ではない!
リアルに描かれているからこそ、山王のフルコートゾーンプレスのエグさは漫画以上に伝わってくるし、ラスト20秒の静寂と躍動のエモーションは半端ではない!
本作以降、スポーツアニメの演出は一変してしまうのではないか?そう思わせてくれる圧巻の再現度でした。
ここまで微に入り細を穿ったスポーツ演出は、実写・アニメを問わず世界でも唯一なんじゃないだろうか?
3DCG作画のクオリティも文句無し!試合場面はCG、平場は2Dで描かれているのだが、この3DCG/2Dの切り替えが実に自然。ハッキリ言ってほとんど気にならない。同時期に上映されているジャズアニメ『BLUE GIANT』と比較してもらえれば、本作のCGの使い方がいかに上手いのかが分かるのではないだろうか。
正直観客席に座っているモブのCGはかなり荒いと思うが、試合場面という最も大切な部分にその分の労力も集中させたのだろう。
全てが完璧なクオリティというのがもちろん理想ではあるが、現実的に考えてそれは不可能なのだろうし、それなら力を注ぐべき場面に全力を注ぐという姿勢は全くもって正しい。
作画に関していえば、不満点は一切ない。CGアニメとしては日本最高峰のものだと思います。
とまぁ、基本的には大絶賛✨
あまりに情報量が多いので一回観ただけでは全然汲み取れていない気がする。
試合場面を逐一停止させ、どんなことが起こっているのかゆっくりと咀嚼しながら鑑賞したい!
とはいえ、原作ファンとしては漫画にあったコミカルさが薄れてしまっているのは誠に残念。
「リアル」や「バガボンド」など、「SLAM DUNK」以降の井上雄彦は中々にシリアスでヘビーな作品を手掛け続けている。
このシリアスさが本作にも色濃く投影されており、ポップだったりギャグだったりするシーンが悉くカットされている。
コミカルな部分も「SLAM DUNK」の魅力の一つなのだから、これにはちょっと不満も残る。
また、追加要素であるリョータの過去。
正直、こんなに暗いものにする必要があったのかは甚だ疑問。
原作を読めば読むほど、漫画版のリョータとは性格が違いすぎる気がしてしまう。
実はビビりでナイーブ、というのは原作にも描かれていたけど、もっと能天気なキャラクターだったじゃん。
「バスケ部に入部するか迷ってたけど、アヤちゃんに一目惚れして入部を決めた」って言ってたくらいだし。
今回の辛気臭いリョータより、「やれやれ退院そうそうー」 スッ、ってくらい血気盛んなリョータが好きだよ俺は。
このリョータパートが結構怠くって、これが始まるたびに牧さんのように「試合はまだですか監督‼︎ スーハースーハー」って思ってたのはここだけの秘密。
『THE FIRST』というタイトルには、これは今までとは違う新しい「スラムダンク」だっ!という意味も込められているはず。
今流行りのマルチバース風に言うのであれば、これは原作とは違う可能性が生み出した別バースの物語ということなんだろう。
だからリョータの性格の違いとか、そういう細かいことは言いっこなしよ、ということなんだろうけどさぁ…。
何でもかんでもシリアスにすれば良いってことでもないでしょうに。
個人の好みからは少々外れるものの、クオリティ的には大傑作だと思うし、1人でも多くの人に鑑賞してもらいたい作品である。
何より、彩子さんがめっちゃ可愛くてヤバい💕そりゃ鉄男やミッチーも「オレの好みだ…」って言いますわ。
かなりの時間と予算と労力がかかったであろう本作。作るのは容易ではなかっただろうが、『THE FIRST』だけではなく、このまま『THE SECOND』『THE THIRD』と続いていって欲しい。
井上先生……‼︎ …………… 続きがみたいです……。
秀逸、かつ熱いレビュー、お見事です♪
分析が素晴らしいですね。
私にとってのスポーツ漫画2強はなんだろうな、、、と考え込んでしまいました(笑)
悩み抜いた末に勝ち残ったのは
「野球狂の詩」と「明日のジョー」かな。
あと特別賞として「すすめ!パイレーツ」も。
キャプテン翼はサッカーと全然関係ない部分で楽しんでいた時期もありましたが。(いわゆる2次創作ねw)
このレビューに圧倒されました。
私もすごい作品だと思いました。原作のファンも、バスケットを実際にやっていた人も納得の作品だったのではないかと思います。
ただ、やっぱり主役は花道であって欲しかったなあ、と。
いろいろ見たい映画がいっぱいあって、なかなか同じ作品を見直す余裕はないのですが、こんなレビューを見ると、もう一度見に行きたくなってしまいます。