「原作ファンの私は面白かったけど、、、、」THE FIRST SLAM DUNK イカゲソさんの映画レビュー(感想・評価)
原作ファンの私は面白かったけど、、、、
あくまで原作ファン向けです。
私の価値観ですが残念ながら一本の映画、芸術作品としては成立しているかどうかが微妙なところ。
原作漫画やアニメと連動したシリーズ物としてとらえればもう少し評価は高いと思いますが、あくまで一本の自立した映画として評価すると全体的にかなりチグハグな上に不完全な印象が強いです。
もしスラムダンクを知らない方に観るべきか聞かれたら「スラムダンクは素晴らしい作品です。しかしせっかく興味を持ったならば、是非先に原作を読んでそれから映画を観て下さい」と伝えると思います。感動も興奮も全て、原作を読んだ下地ありきで制作されているからです。この作品を先に観てしまうのはかなり雑なネタバレになりますので非常に勿体ない。
〈以下ネタバレ含む〉
宮城リョータを主人公にした仕掛け自体は見始めは悪く無かったのですが、本来が(名)脇役で、試合展開自体は完璧に原作をなぞっていますので終盤に行くにつれて無理が出て来ます。リョータ主人公の設定は破綻。やはり主人公は桜木花道。試合を決めるのも花道。何も知らずに観た人は「ん?主人公、誰??」て確実になると思います。
また、リョータの生い立ちを含むプライベートの新ストーリーがこの映画版の一つの見どころだと思うのですが、そこが少々ベタな上に雑に感じてしまいました。「兄ちゃんにはコテンパンにやられたけど、弟のお前は大した事ないな」と相手チームの選手に言われた事を考えると、兄のソータとの歳の差が3つはおかしい。そしてそもそも死んでしまう事が見ていてすぐに想像出来てしまった。お母さんは暗すぎだし普通に結構酷い親。あまり感情移入出来ませんでした。その辺りは私にとっては映画としての重大な欠陥でした。
リョータ主人公設定は最後のアメリカ行きで何とか取り戻しますが、このくだりもかなり唐突で微妙に感じました。何故なら原作で安西先生が試合中に「見てるか谷沢?」と感動していたのは花道と流川に対してなのですから。それはつまり花道と流川のアメリカ行き(はたまたNBA入り?)の可能性を示唆する描写でした。あのシーンが素敵なだけに、その2人の山王戦後を全く描かずにリョータがアメリカと言うのは、原作の持つ良さに惹かれている人間としては「??リョータが???」となりました。
スラムダンクの作品の特徴は「スポーツにおける体格を含む才能の残酷さ」を全く隠さずに赤裸々に描いている点です。自身を「天才」と連呼する桜木花道は実際に体格や身体能力の点で紛れもなく「天才」で完全なるド素人から数ヶ月でインターハイの舞台ですら突出した選手に成長します。子供の頃からずっと地道な努力を続けてきた選手達を簡単に追い抜いてしまうのです。
しかし映画版スラムダンクはリョータを主人公にした為か「小さくても諦める事はない。信じて努力すれば夢は叶う」という全く別の方向性にブレてしまった様な気がします。実際に連載終了後に田臥選手の快挙がありましたので、その辺りに影響を受けたのでしょう。でも原作の本筋は貫いて欲しかったなー、というのはイチファンの感想です。
スラムダンクは絶頂のところで突然ストーリーが終わるという異質な作品でした。その為に伝説的な作品となったのかも知れません。
しかしだからこそファンは様々な想像をしたのです。湘北はあの後どうなったのか?バスケ強豪校に変わっていったのか?花道と流川は?アメリカやNBAに挑戦したのか?どこまで行けたんだ?と。
「原作者が監修するスラムダンクの映画が出来る」と聞いた時に、その辺りに対する井上先生のアンサーが少しはあるのではないかと、期待したのは私だけでは無いハズ、、、、
エンドロールが終わる瞬間までその期待は持ち続けましたが、最後までそこは描かれませんでしたね。
やはり流川と花道の可能性は読者の想像にお任せのスタンスの様です。それはそれで井上先生らしいのですが、、、何か少しでも見たかったな、、、
とは言えリョータのアメリカ行きは、初めてのインターハイ後の彼の急成長を意味しますよね。弱点だったシュート力を克服し、一気に攻撃型PGの才能が開花したのかも知れません。(そうじゃないとアメリカは多分厳しい)
チームとしても、高1にして全日本入りした流川と怪我から復帰した花道もいる。あれだけ感動的な試合をしたチームです。ディアボーイズ的な書き方をすると、きっと新一年生にも才能ある選手が入って層も厚くなったハズ。湘北はもしかしたら翌年のインターハイでは全国制覇を成し遂げて赤木に捧げたのかも知れません。
そうじゃないと、アメリカで沢北のマッチアップは務まらないでしょう。
とまあ新たな妄想も膨らんだところで、やはり一つ言いたいのは井上雄彦先生への感謝ですね。
最初に書いた様に一本の映画としての完成度がどうかはともかくとして、イチスラムダンクファンとしてはとても楽しませて頂きました。
特にあのクオリティでの山王戦のバスケシーンのアニメーションは感動しました。三井寿の美しいシュートフォームがオフボールの動きからフォロースルーまで完璧に再現されています。震えました。
更に花道の安西先生へのタプタプは最高でしたね。笑
井上先生、ありがとうございました!