「ずっしりと重いのに清々しい、『ぼくのエリ』のように美しく血塗れな青春譚」少年の君 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ずっしりと重いのに清々しい、『ぼくのエリ』のように美しく血塗れな青春譚
主人公は大学受験を控えた高校生のチェン・ニェン。彼女が通う高校は皆参考書が山積された机で一心不乱に勉強する超進学校。ある日同級生フー・シャオディエが飛び降り自殺をしてしまう。チェン・ニェンは彼女が虐めに遭っていたことを知っていたのに他のクラスメイト同様見て見ぬふりをしていたことを悔いるが、今度はチェン・ニェンが虐めの標的となってしまう。絶望的な日々を送っていた時、ある少年が集団リンチに遭っているところを目撃する。とっさの判断で救った少年の名前はシャオベイ、母親に捨てられた孤独なチンピラだがチェン・ニェンへの借りを返すために下校時のボディガードを買って出る。優等生とチンピラという全く異質な二人だったが放課後を一緒に過ごしているうちにお互い強く惹かれ合うようになっていく。しかし受験が近づくにつれてチェン・ニェンに対する虐めが激しくなり、毅然とした態度で立ち向かおうとしたチェン・ニェンの身に凄惨な報復が忍び寄ってきていた。
まず受験戦争の激しさが強烈。担任が軍曹のように学生の上に君臨し、大声でアジる。実際受験生達は進学先が人生を決めてしまうので心のどこにも余裕がなく、その精神の歪みは容易に凄惨な虐めを生み出すが、虐められている同級生に対して同情することもない。そんな絶望が横たわっているので、フー・シャオディエが自殺する前にチェン・ニェンにこぼした疑問詞がとてつもなく重い。最下層に暮らす弱者であるチェン・ニェンとシャオベイはそれぞれの手段で前向きに生きようとするが彼らを捻り潰そうとするように様々な苦難が訪れ、彼らが遂に社会に向けて牙を剥く瞬間の切なさが胸に突き刺さります。孤独な二人が力づくで未来を切り開こうとする様はスウェーデンの吸血鬼映画『ぼくのエリ』のような観る人によってバッドエンドにもハッピーエンドにも見えるもの、取ってつけたようなエンドロールがその無情さを微かに煽ります。チェン・ニェンを演じるチョウ・ドンユィの今にも消えてしまうそうな透明感と、シャオベイを演じるイー・ヤンチェンシーが全身から醸し出す痛々しい純粋さが印象的。ずっしりと重いのに鼻の奥がスッとするような清々しさも感じる血塗れの青春譚です。