「彼らの選択、彼の賭け」少年の君 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
彼らの選択、彼の賭け
広い世界からはじき出された2人が出会い、小さな世界を守ろうとする話…と予告では思っていた。ありきたりと言えばありきたり。甘く切ない、恋の物語か。それでも観たい、観ておきたいという気持ちがふくらみ、雨続きの休日に、いそいそと劇場へ。するとそこには、思いもよらぬ闇の世界が広がっていた。
冒頭、テロップで「いじめ」が本作の大きなテーマであることが示される。けれども私には、学歴至高主義、受験一色の学校の方がより衝撃だった。机に参考書や問題集を積み上げて壁を作り、互いに顔を背ける高校生たち。ひしめく制服の群れが朝は校舎に吸い込まれ、暗くなってから一斉に押し出されてくる。鬱々とした淀みが降り積もり、観ているだけで息苦しい。このところの天気も手伝って、彼らの居場所が、今自分がいる場所と地続きなのだと感じられ、心はさらにざわついた。
身動きが取れない日々の中、理不尽にいじめのターゲットにされた孤独なヒロインが、異世界の不良少年に偶然出会う。凄いのは、2人の関係が、すれ違いや接近と皆無なことだ。2人は徐々に惹かれ合うどころか、最初からぴったりと重なっている。どうしてよいか分からなくても、人を見捨てられない・放っておけない2人。当然、二度のキスで語り尽くせるような甘い恋物語では終わらない。この映画が描こうとしているのは、2人のその先であり、2人をはばむ歪んだ世界なのだ。後半、別室にいる2人の横顔のカットが右に左に連なっていくさまは特に素晴らしい。2人の独白が会話のように響き合い、ぞくぞくとした。さらに、終盤で正対する2人の正面カットの連なりも、無言にして雄弁な語りとなっていた。
2人が決死の思いで選び取った選択を、ぶち壊して真実を引きずり出そうとする大人たち。儚く美しい恋物語ならば、無粋な不要品でしかない。けれども、いじめや受験社会に囚われた世界の中で、もがきながらも前進していこうとする彼「ら」の光を守るには、格好悪い大人のずぶずぶなもがきや揺さぶり、おせっかいや押し付けが、起爆材になり得る。いかにも警察、な刑事のやり口には正直賛同できないが、彼の葛藤や無鉄砲さは、私たち大人が、自分に引きつけて考える価値があると思った。
どんなに急いでいても、どんなに胸に込み上げるものがあっても、ぜひ最後までスクリーンに向き合い、彼「ら」のその後を見届けてほしい。おかげで、観終えたあとは、曇り空を晴れ晴れとした気持ちで見上げることができた。