「ベタではあるが、それを凌駕する熱量と感性の煌めきがある」少年の君 SGさんの映画レビュー(感想・評価)
ベタではあるが、それを凌駕する熱量と感性の煌めきがある
冒頭で「いじめ」を無くすことが作品のテーマだと宣言し、エンドクレジットで教育省の取り組みをわざわざ説明している部分に、中国政府の干渉を疑わざるをえない。
まぁそのことは抜きにして、確かにいじめの問題をリアルに描き、誰からも守られず助けを求めることもできない泥沼にいる孤独な若者の苦悩を痛いまでに描写しているが、この作品の本質は不遇な状況にあるヒロインを、汚れているけど頼りになるダークヒーローが救おうとする古典的な純愛(友情?)の物語なのだと思う。
ある意味"ベタな"構造ではあるのだが、そのことを凌駕するほどの熱量と研ぎ澄まされた感性がこの作品には満ち溢れている。盛り過ぎとも思える後半のサスペンス要素も娯楽として楽しむためには必要か。
本国のみならず、日本でも特に若い年代層に衝撃と共感を生むことは間違いないだろう。
ロケ地の重慶という街は、他では見られない「8D魔幻都市」と謳われるほどの重層立体都市で、市街地とは思えないその高低差の激しい風景が、ダイナミックさと閉塞感を同時に生み出し不思議な効果を与えている。
そして何よりも主演二人の魅力は圧倒的。
人気アイドルグループのメンバーでもあるシャオベイ役イー・ヤンチェンシーの優しさと脆さを内包した不良っぷりと、若き名女優チョウ・ドンユイ(周冬雨)の強さと弱さを併せ持つ女子高生の揺れ動く感情を滲ませる演技はどちらも完璧にハマっている。
中国(この監督は香港だが)の若き映像作家やアーティスト、俳優たちの感性とパワーを未だ疑っているならそれはもはや時代遅れだ。
日本や韓国や欧米のカルチャーから非公式な方法ではあるが影響を受けてきた彼らの作品は、私たちが目にする時点ですでに圧倒的な競争と制約を勝ち抜いて選ばれてきたものなのだから。
「少年的你=シャオニィェンダニー」
原題であるこの言葉の響きも素敵だ。
また中国に行きたくなった。