「派遣社員の閉塞感とめまい」めまい 窓越しの想い shoheiさんの映画レビュー(感想・評価)
派遣社員の閉塞感とめまい
私は韓国の若手演技派女優チョン・ウヒが好きだ。だからこの映画も楽しみにしていた。5月公開だった予定が緊急事態宣言により公開が遅れた。
この映画、今一つ評判がよくなかったのだけれど、私は非常によかったと思う。よかったと思わなかった人は想像と物語が少し違っていたからだろう。
チョン・ウヒはこれまで本当に演じていてきついような役ばかりを演じてきた。役者のインタビュー番組(Youtubeで視聴)でも、彼女自身がそのように語っている。しかも、彼女の演じる役は自身が孤立していたり、求めても相手に気持ちが伝わらない役ばかりなのだ。
彼女を一躍有名にしたのは「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」(2013)の主演でだけれど、これは17歳でレイプされ、被害者なのに(であるが故に)周りから偏見の目でみられ、差別される少女を演じている。しかも20代後半でその役を演じているのだ。「Sunny 永遠の仲間たち」(2011)だって少女グループの仲間から絶縁されてしまう少女の役だし、私が初めて彼女の演技を
観た「哭声 コクソン」(2017)というホラー映画だって、村の謎の女という重要な役なのだけれど、彼女の忠告は受け入れられない。「ワン・デイ 悲しみが消えるまで」だって、訴えたいことがある彼女の姿が見えるのは主人公の男性だけだ。だから、この作品もやはりチョン・ウヒが主演しているということで、爽快なラブ・ストーリーが描かれるわけでないことは分かるわけだ。確かにこの作品は都会のオフィスで働く派遣OLの閉塞感に満ちていて、その閉塞感の表れとして彼女がめまいに苦しんでいるというのは、昨年公開された傑作「ハチドリ」を観ていれば、簡単に分かることである。「ハチドリ」は中学生を描いていたけれど、この作品は同じアプローチで、女性差別やセクハラなどが横行し、派遣社員の立場が弱い韓国の企業社会の閉塞感を巧く描いている。そしてその閉塞感を打ち破るのが「窓」の向こう側にあるという映画的なシチュエーションであるというのもいい。チョン・ウヒの演技力が素晴らしいというより、もうこの役は彼女しか考えられにくいくらい、彼女の実存性が見事にこの映画が描く状況に嵌まっていると思った。この映画でますますチョン・ウヒが好きになった。