「葛藤に解を示してくれる映画」ミナリ Miki.Kさんの映画レビュー(感想・評価)
葛藤に解を示してくれる映画
1980年代、韓国では生きていけないと、夫婦で渡米し、子をもうけ、各地を転々としたのちに農業で成功することを夢見てアーカンソーにやってきた韓国人一家。
冒頭で父が子に、
俺たちは役に立たなければならない、
と一服しながら言う。
当時、移民が浸透しつつあったのかもしれないが、他所からやってきて、いわば人様の国で身一つで生きていくということは生優しいものでは決してなかっただろう。この国にやってきたからには役に立たなければならない。そして、役にたつだけでなく、成功も収めなければ。
役に立たなければという呪いを自身にかけて必死にアメリカで根を張っていこうとする移民一世の葛藤が非常に美しく瑞々しく描かれ、見入ってしまった。
この役に立たなければ、という呪いは父だけが抱えているものではない。
仕事を終えてもなお家でヒヨコ選別練習を行う母も、この苦労一家のサポートとして韓国から呼び寄せられ、後に脳卒中で倒れる祖母もまた、役に立たなければと葛藤する。
この一家の物語はそんな呪いが引き金となって起こる事件によりクライマックスを迎えるが、映画のタイトルであるミナリ(韓国の芹)がそれを解く鍵であったように思う。
劇中、脳卒中で倒れる前の祖母が韓国から持参したミナリの種を植えようと子に話すシーンがある。ミナリはどこにでも生えて、多様な食べ方があって素晴らしいと。
そして、父の農作物がやっとの思いで収穫に至った一方で、韓国産のミナリは手を加えることなくアーカンソーのとある河辺で鮮やかに茂っていったのだ。
ミナリは「この地で役に立たなければ」という呪いの対極にあり、
「生きる場所は関係はない。人は選択に応じて多様に柔軟に生きていくことが可能であるし、それは素晴らしいことだ」と解を示しているのではないかと思う。
ラストは腹にすとんと落ちる描写で非常に良かった。欲を言えば、もう少しこの一家の物語を見ていたかった。
余談だが、私自身もかつて外国への移住を夢見たことがあり、失敗して、訳あって今は縁もゆかりもない土地に住んでいる。
ここで根を張れるかどうか定かではないが、かといって故郷に帰るわけにもいかないので意地になるときがある。
ミナリはそんな自分の中にすっと入ってきて、多様に、柔軟に生きよと示してくれた気がする。
最後になるが、この映画に出会えてほんとうによかった。素晴らしい時間をありがとう。