「セリの様にも青臭さも苦味も感じる滋養溢れる作品です。」ミナリ 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
セリの様にも青臭さも苦味も感じる滋養溢れる作品です。
この時期になるとアカデミー賞エントリー作品が上映されますが、やはりエントリー作品となると、そんなにハズレは無いかなと思い、鑑賞しましたw
で、感想はと言うと、良いです。
但し、荒ぶった気持ちの時はもっと刺激が欲しい感じもありますが、穏やかな気持ちの時に観ると沁みわたる様な優しさが気持ち良いですw
韓国からアメリカでの農場成功を狙って移住した韓国人の家族の奮闘記ですが、戦後まもなくにブラジルに移住した日本人の方を連想しました。
1980年代に韓国からアメリカに移住すると言う社会情勢は全てを理解している訳ではありませんが北朝鮮との冷戦が続き、夜間の外出時間が制限され、軍人がデモ隊に催涙弾や銃を向け、言論の自由も制限されていたと聞きます。
明らかに日本より数十年遅れて感じで、戦前から戦後の日本の様な感じでしょうか?
現在も治安維持法である国家保安法が存在し、独立した公安組織である国家情報院が存在する事を鑑みると今から30年以上の前の韓国は自国民ですら住みづらかったと思います。
ジェイコブ一家はそんな韓国を抜け出し、新天地のアメリカ・アーカンソー州に移住して来ます。
アーカンソー州と言う州は個人的にはそんなに馴染みの無い州なんですが、自然が豊かで農業にはうってつけ。
ジェイコブがこの地で一山当てようとしますが、やっぱりそんなに甘くない訳でほぼゼロからスタートに一苦労どころの騒ぎじゃない。
一番の問題は妻の理解がなかなか得られない事。
息子のデビッドが抱える心臓の病で何かあった時に病院に行くのも一苦労の地での出発は納得が出来ない。
ジェイコブの気持ちも分かるし、妻のモニカの気持ちも分かる。どちらかと言うとモニカ寄りな感じですがw
そこからモニカの母親で祖母のスンジャおばあちゃんが孫達の面倒を見る為にアメリカに来る訳ですが、このスンジャおばあちゃんがかなり破天荒。
そんなスンジャおばあちゃんが巻き起こす大騒動!かと思いきや、そうでもなかったw
粗暴で口が悪くて何処かこズルい感じですが、孫想いの良いおばあちゃん。
なかなか懐かなかったデビッドがおばあちゃんにオシッコを飲ました辺りからなんか打ち解けていった感じw
物語は割りと淡々としていて、ジェイコブの農作もなんとなく上手くいきそうな感じでありながらも、モニカは常に仏頂面。
スンジャおばあちゃんが倒れた辺りから物語が動き始めますが、そこまではかなりスローでロハスな感じ。
ちょっと中弛みは個人的に感じます。
全体的には夫婦間のモヤッとした空気感がありますが、出てくる登場人物で嫌な奴がいないのが個人的には良い。
デビッド役のアラン・キム君が良い感じなんですよね。
お姉ちゃんのアンは些か割りを食ってる感じはあるのがちょっと残念。家族が弟に構いがちになるといつも割りを食うのはお姉ちゃんなんですよねw
スンジャおばあちゃんの孫想いの気持ちがじんと心に染み入ります。
最初は孫嫌いなのかな?と思いましたがそうじゃなかった。
デビッドを想う無償の愛情にウルッときますね。
でも、教会での寄付のお金をくすめ盗るのにはビックリもし、些か笑ってしまったw
ただ、十字架オジサンの存在はそれ以上でもそれ以下でもなく、単に田舎にいる変なオジサン的になってたのは面白いけど意図が分からんw
でも、信心深くてちょっと変なオジサンのポールも実は良いヤツで、実は一番変なのは…ジェイコブなんですかねw
自分の夢と理想を叶え、家族の為に突き進む姿は力強い父親像ではありますが、ちょっと頑な。
ヒヨコのオスメスの見分け方が瞬時に出来るとかの特技なんかも割りとスルーされている感じも勿体ない。
ここまでアーカンソーで農業に殉じて身を立てようとする過去の体験や背景をもう少し入れた方がジェイコブに感情移入が出来たかと思いますが如何でしょうか?
制作・配給のA24は近年話題の作品を世に出している気鋭の会社で「ムーンライト」「レディ・バード」「聖なる鹿殺し」「mid90s ミッドナインティーズ」と言った話題の作品から「ミッドサマー」「ヘレディタリー/継承」「スイス・アーミー・マン」「Mr.タスク」と言う話題でありながらいわゆる「変」な作品も輩出w
良い作品も変な作品も玉石混淆な感じもしますがw、異様に攻めている会社なイメージ。
この作品は「ムーンライト」「レディ・バード」系の良い作品でありますが、A24は話題の作品を常に提供しているのでそのブランドがこの作品でも活かされているかと思います。
あと、劇中に出てくるダウンジングだけが、何故かA24らしい感じで「ミッドサマー」感を感じさせますw
タイトルのミナリは韓国語で日本ではセリの事。
春の七草の一つで「七草粥」の中に入れるので有名ですが個人的にはササッと湯がいてドレッシングや梅肉と和えたのなんかが好き♪
水田の畔道や湿地などに生え、雑草として捉えられがちですが、食べても良し、薬効もあると言う万能食。
それでいて栽培にも手間が殆ど掛からない。
このセリの効能を理解するとタイトルがかなり深いんですよね。
どんな土地に行っても雑草の如く逞しく根を張り、しっかりどっしりと生きる姿勢はまさにセリその物。
いろんなトラブルがあっても「雨降って地固まる」かの如く、トラブルを乗り越えるラストは若干尻切れトンボの様にも感じますが、いろんな想像を掻き立てますが、いろんな未来を暗示する流れとしては良いんではないでしょうか。
家族愛とおばあちゃんの優しさ、そしてセリの野性味溢れる美味しさを味わった様な清々しさ。
昨今の刺激的な作品に慣れていると物足りなさを感じますが、噛み締めると苦味を感じる滋養溢れる味わいは癖になる。
あ~セリの和え物やサラダなんかが食べたくなってきた♪
そんな気持ちになれる作品です。