劇場公開日 2021年4月23日

スプリー : 特集

2021年4月12日更新

バズりたくて、バズりたくて… 殺人の様子を生配信
Search×ナイトクローラー 驚愕必至の良質スリラー

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またしても尖りまくった映画が日本へやってきた。4月23日から公開される映画「スプリー」は、見る者の口をあんぐりと開けさせ、全身をゾッとさせ、脳髄に未体験のショックを与えるようなジェットコースター・スリラーだ。

SNSで有名になりたい男が選んだのは、とんでもない生配信だった……。さながら「Search サーチ」×「ナイトクローラー」といった趣の“新時代の秀逸作”。

この特集では、注目すべき物語、見どころとなる斬新性、そして約78万のTwitterフォロワーを誇るジャーナリスト・佐々木俊尚氏によるレビューを掲載する。


【予告編】もう誰も止められない―― SNSの恐怖と不条理があなたの心を掌握する

【物語】人生一発逆転のため、殺人を生配信
現代の仄暗い靄に迫り、サンダンスを熱狂させた注目作

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[物語]10年間動画投稿 しかし視聴者数はほぼ0… カート・カンクルはあるアイデアを思いつく

主人公は“有名人になりたい男”……。10年間動画を投稿し続けるも、視聴者数が2桁に届くことは滅多にない。それでも投稿を続けるライドシェアドライバーのカート・カンクル(ジョー・キーリー)は、SNS上でバズりにバズり、フォロワーも爆増するであろう画期的なアイデアを思いつく。

それは、カートのライドシェアを利用する乗客を殺害し、一部始終を生配信することだった――。ところが、いざライブ配信で次々と客を殺していくものの、わずかな視聴者は「はいフェイク」「は? おもんな」「おまえ才能ないよ」と冷ややかな反応で、バズるどころかバカにされる始末。こんなはずでは……有名になるためには、もっと刺激的な映像が必要だ。

そう考えたカートは、さらに大胆な行動に出る。犯行はどんどんエスカレートし、考え得る最悪を遥かに超える“そうきたか!”な事態へと発展していく。

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[評価]サンダンス映画祭で観客熱狂 主演はインスタ“680万フォロワー”のジョー・キーリー

カートの“能天気なサイコパス感”が笑いを誘うが、一方で、生配信で殺人が行われる様子は非常にシビアかつスリリング。根底には現代社会における仄暗い靄(もや)のようなもの――特にSNSを通じた承認欲求が攻撃性へと変わる瞬間――が不穏に渦巻いており、恐怖と不条理が見る者をじわじわと取り囲んでいく。

世界中のエッジが効いた作品が集うサンダンス映画祭でプレミア上映されるや、その内容は目の肥えた観客を熱狂のるつぼに叩き落とした。劇場公開は33スクリーンと小規模だったが、口コミが口コミを呼び、全米興行収入ランキングでは初登場9位に食い込むスマッシュヒットとなった。

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主人公のカートに扮したのは、Netflix「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のスティーブ役でブレイクした世界的人気若手俳優ジョー・キーリー。Instagramのフォロワーは約680万人(2021年3月29日時点)であるキーリーが、身の毛もよだつほど人気がない生配信者を演じるという面白さがある。

監督・共同脚本を手がけたのは、ウクライナの新鋭ユージーン・コトリャレンコ。2011年のデビュー作「0s & 1s」(日本未公開)は、オペレーション・システム(OS)の視覚言語を用いてストーリーを紡いだ初めての映画であり、ニューヨーク・タイムズ紙に「何度でも観たくなる究極の映画」と激賞された。斬新なテーマ性と視点を打ち出し、従来の概念にとらわれない柔軟な表現方法から、業界で最も注目されている若手監督の一人である。

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【見どころ】「Search」×「ナイトクローラー」
映画は“ここまで”きた 新境地切り開く斬新な映像表現

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予告編を見てもらえればよくわかると思うが、本作は投稿動画、ライブ配信、ライドシェアのアプリなど、スマートフォンやPCの画面上で起こる出来事のみで物語が描かれる。「search サーチ」や「アンフレンデッド ダークウェブ」などと同様の、いわゆる“スクリーンライフ映画”と呼ばれる作品である。

しかし本作は、先行作品と異なる斬新性を携えている。物語が「ライブ配信の画面を通じて描かれる」という点が、見る者の虚構と現実の境目を融解させ、まったく新しい映像体験をもたらす。

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どういうことか。我々は映画館で“ライブ配信”を見ることになる。スクリーンはさながら大きなスマホの画面となり、現実世界のどこかで、狂った青年が実際に殺人を起こし、その模様を配信するのを目の当たりにしているように錯覚させる。

先行作品よりも、「物語を見ているのではなく、リアルな出来事を目撃している」感覚は本作の方が強いのではないか。映画開始10分で、これから自分は“新たな時代を象徴する事件的な作品”を目の当たりにする、そんな予感を持つ。

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予感は物語を追うごとに確信へ変わり、エンドロールに入る直前、「ご協力に感謝!」という字幕が表示された瞬間に衝撃へと様変わりする。鮫肌のようなザラリとした感覚が、あなたの全身を駆け巡るだろう。

ちなみに物語の序盤、カートは不敵にも、観客に向かって「正視できなかったらやめてもいいよ」とつぶやく。この能天気さが逆に“底が知れない”サイコパス感は、見ていて「ナイトクローラー」でジェイク・ギレンホールが演じたルイス・ブルームを彷彿させる。その意味で、本作はさながら「Search」×「ナイトクローラー」といった趣なのである。

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映像表現やキャラクター造形は斬新の一言、さすがは「SkyDiver」(11/日本未公開)のコトリャレンコ監督と唸らされる(同作では全編ビデオチャットとスクリーンショットを駆使し“テロ事件”を描いた)。映画はここまできた。そんな発見を得られる一作だ。


【レビュー】ジャーナリスト・佐々木俊尚氏
「承認欲求の恐ろしさ=SNSの病弊が見事に表現」

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承認欲求の気持ち悪さや恐ろしさを、これでもかというほどにあからさまに描いていて、観ていると不快な気持ちでお尻がムズムズしてくる。しかしそのムズムズ感は、全編にみなぎる疾走感に呑み込まれていって、「うぉーそこまでやるか!」という迫力とともに一気にラストシーンに持って行かれてしまう。なんとも形容しがたい本作は、そういう異様な迫力の映画である。

登場人物が、主人公も含めてとにかく全員インチキくさいのが素晴らしい。最初にライドシェアの乗客になる男は、何かのセミナーの人気講師らしいが、白人至上主義者っぽい発言を連発してくれる。その後に乗ってきた若い男はやたらと上から目線でマウンティングし、その偉そうな態度は観ているだけでムカムカしてくる。

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いっぽうで主人公は、白人至上主義者には「そんなことは言わない方がいい」とアドバイスし、マウンティング男の女性蔑視発言に「降りろ!」と命じる。そういうところだけはきちんとポリティカル・コレクトネスを守っているのがおかしい。「殺人鬼のお前が言うな!」とスクリーンに向かって文句を言いたくなり、もうその段階で製作者の術中にはまってしまってる感がある。

さらに強烈なのが、作中のSNS画面に表示されるリプライの数々だ。主人公が人を殺してライブ配信しても「フェイクでしょ」「退屈」「クソつまんねえ」とひどい反応ばかり。日本でもつまらないリプライを称して「クソリプ」というネットスラングがあるが、まさにクソリプの嵐。殺人ライブ配信へのリプライで「死んだか見に行け」とアドバイスし、あげくは「死体と記念写真撮れよ」という要求まで。

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事件に巻き込まれた登場人物のひとりは、そういうクソリプに怒りをぶつける。「何を見物してるの! いかれてる。テレビ番組じゃないんだよ!」

このシーンを観ていて、わたしは1985年の豊田商事会長殺害事件を思い出した。巨大詐欺事件を起こして社会の注目を集めていた会社の経営者の自宅マンションに、義憤に駆られた男二人が侵入して経営者を滅多斬りにして殺した事件である。マンションの部屋の前には新聞テレビのカメラマンたちが集まっていたが、誰ひとり制止しなかった。ひたすら撮影して生放送まで行い、これが後になってたいへんな批判を浴びた。

この事件がいまのSNS時代に起きたら、報道陣のみならず通行人も近所の人もこぞってスマホのカメラを向け、ライブ配信しまくるだろう。そして「死んだか見てこい」「死体と記念写真!」とクソリプ送る人も間違いなく出てくる。

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本作では、ネットユーザーがクソリプでさんざん主人公を煽りまくったくせに、後になってリアルで観てた人、リプライを送った人たちをバカにするユーザーたちも出てくる。「バカどもの集まりだ」

どこまで行っても自分を優位に立たせて、マウンティング合戦をしないと気が済まないSNSの病弊が、見事に表現されている。われわれにも決して人ごとではない、そういうSNSの承認欲求の気持ち悪さを暴きまくり、「どうだ!お前ら自分を思い出して嫌な気持ちになっただろう!」という製作者の高笑いが聞こえて来そうな、そういう痛烈な作品なのである。

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