「名優たちが演じる”名もなき人々”が味わい深い」スペンサー ダイアナの決意 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
名優たちが演じる”名もなき人々”が味わい深い
この映画に大きな展開を期待してはいけない。ストーリー性でグイグイ引き込むというよりはむしろ観客が能動的に足を踏み入れていくタイプの作品と言おうか。それゆえ、ダイアナに興味を持ち、彼女が王族を離脱する決意を固めるまでの心理過程をじっくり見つめたい人にとっては、望みどおりの親密なる映像体験となるはずだ。本作のダイアナは聖人でもなければ悲劇のヒロインでもない。時に少女のような自由奔放さと成人女性としての毅然とした表情を併せ持ち、孤独と不安に押し潰されそうになりながら、暗闇の先の光に手を伸ばそうとする。この等身大の人間像をかつてない存在感で体現するクリステン・スチュワートが見事だ。また本作が興味深いのは、王族たちではなく、彼らのためにお仕えする”プロフェッショナルな人々”を物語の前景に立たせているところ。このアウトサイダー側の目線と言葉がダイアナの存在感と絡まり、深い香りと味わいをもたらしている。
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