「 1人の人間らしく生きた女性の物語と捉えたい」スペンサー ダイアナの決意 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
1人の人間らしく生きた女性の物語と捉えたい
今は亡きエリザベス女王やダイアナ妃の実像に迫るとしたら、ドキュメンタリー映画という手段が相応しいかもしれない。英国王室にまつわる記録映像は山ほど残っているし、作者はアーカイブ映像を元手に個々の編集と視点を駆使して実在の人物を画面上に再構築できるからだ。
その点、作り物と見られがちなフィクションはやや分が悪いのだが、本作は、ダイアナとチャールズ元皇太子の関係が冷え切っていた1991年のクリスマスイブ前後の3日間にフォーカスすることで、散漫になりがちな人物像を深く切り取っている。そこで、クリステン・スチュワートの登場である。ダイアナのインタビューやNetflixの人気ドラマ『ザ・クラウン』をチェックすることは勿論、イギリス英語のイントネーションからダイアナ独特の話し方、首の傾け方、歩き方を習得してから撮影に臨んだというクリステン。だが、絶望感と不信感でいっぱいの元妃の目に映る、ロイヤルファミリーの冷徹さ、排他性が、演じる俳優の演技を介して観客にまで伝わって来るのは、真似事ではない、生まれながらの資質だと思う。
終始重苦しい映画には、意外に救われるラストシーンが用意されている。でも、その先には非業の死が・・・・・。とは考えず、人間らしく生きた女性のある物語として捉えると、これもありか、と納得できるのではないだろうか。
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