劇場公開日 2021年7月30日

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「今の時代だから「こそ」観るべき映画」アウシュヴィッツ・レポート yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0今の時代だから「こそ」観るべき映画

2021年8月7日
PCから投稿

今年90本目(合計154本目)。 ※投稿が1週間遅れです(視聴は7/30)

タイトル通り、また、多くの方が知っている、いわゆるアウシュビッツ収容所をテーマにする実話もの。
ナチスのこの収容所政策は、主にユダヤの方が犠牲になったとされますが、中には政治犯や思想犯、宗教関係者や、障がい者(身体・知的・精神)、同性愛の心を持つ方にも及んでいます。

始まりの「歴史を忘れるものはまた同じ過ちを繰り返す」というメッセージ、また、一見すると無関係なのでは?と思われるエンディングロールで流れる一連のやり取りも、アウシュビッツ収容所(他の収容所も同じ)が、「少しでも気に入らない人」をどんどん迫害していたその忌まわしい歴史、また、現在においても世界各国で程度の差はあっても迫害行為(ヘイトスピーチ的なものも含む)があること、それを念頭に入れたのでしょう。
その意味で、この映画は「ナチス政権の反省すべき点を描く」という点にあるものの、それを超えて、「真に平等で誰もが基本的人権を享受できるべき」という点を伝えたかったというように解することが可能で、その点は、比較的差別が少ないとされる現在の日本(2020~2021)でも十分ではない(いわゆるヘイトスピーチ類型)ことを考えれば、実際のガス殺であろうが言葉による暴力であろうが「等しく」許されるものではなく、「誰もが基本的人権を持ち、何らの理由もなく迫害されたり不当な差別を受けることはない」というごくごく当然のことを日本も達成しているとは現在でも言えず(それでも少しずつ改善はしている)、この映画が「真に」伝えたかった点、それが冒頭とエンディングロールにあること、それは忘れてはいけない、そう思います。

また、日本ではこのナチス政権のアウシュビッツ収容所政策などについては、義務教育の小中や、便宜的な準義務教育といわれる高校でも学習が疎かになりがちな分野です。日本では教科書には文科省の検定基準がありますが、余りにも残酷なシーンや表現は、当該小中高の一般の子供の心の発達を目安に審査されますから、こうした部分には検定意見が入り修正を余儀なくされます。そのため、小中では「アウシュビッツ収容所等の政策があり…」だけであり、高校で多少もう少し踏み込んで習うとは言っても高校教科書の検定基準に緩くはなっても存在はしますから、日本の小中校の義務教育(準義務教育といわれる高校/高専も含む)では、「そもそも論として」こうした歴史については、単純に「アウシュビッツ収容所政策があった」こと以上のことは習わず、その前提で入試等も作られているわけです。
すると、日本の小中高校生は、自分で積極的にこうしたことに興味を持って調べない限りわからないことなのであり、文科省の「心の発達に応じた記述」という点は理解しても、今のままでは日本の教育も「結果的にそうした史実があることを不完全にしか教えない、理解させない」ことに片棒を担いでいるも同然であり、この点については、日本においては(まぁ、検定のルールがあるような国は程度の差こそあれ同じでしょうが)この事情から、「知らなければならない歴史を教えない、遠ざけている」というのが現状であり(文科省の事情は当然理解できる)、検定の範疇に入らない(映倫の審査しか入らない)映画館でこの作品が放送されたことは、相当な評価があるものと考えています。

採点にあたっては、下記が気になったものの、作品の傷ではないので、5.0にしました。

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 (減点なし/他事考慮)公開当日、視聴した方には抽選でスロバキアのミニワインが当たる(もちろん、今のルールでは劇場内では飲めない)というプレゼント企画を映画館でやっていたのですが(初日、金曜日のみ)、この作品にスロバキアワインは明示的に出てこないはずです(最後に、赤十字関係者と話をするときに、飲んでいるのがそれ?)。

 まして、アウシュビッツ収容所で収容されている方が間違っても好きに飲めるものではないわけであり、「映画の重み」ということを考えた場合、何をもってこんな「趣旨がわからない」プレゼント企画を実行したのかが本当に謎で(この作品をどう解しても、スロバキアワインを飲みましょうという映画ではない)、正直、「これはモラル的にどうなのか…」と思いました。
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yukispica