「サムライ・マックス」プラットフォーム KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
サムライ・マックス
格差社会の一番ギスギスした部分を切り取り、とびきりのアレンジを加えワンシチュエーションスリラーとして仕上げた作品。
倫理観ゼロ、不快指数マックス。
デスゲームや脱出劇とは全く異なるテイストで、常に新鮮かつ先の読めない展開が続き、非常に面白かった。
上から降りてきた食べ物を食べる。残りは下へ行く。
「穴」のシンプルな構造に翻弄され、飢えたり飢えさせたり食ったり食われたり生きたり死んだりする人間たち。
ランダムに階層が入れ替わることで、他人への憎悪と自分本位がエスカレートしていく。
皆が必要最低限だけ持てば皆で生きていけるはずなのに、そうはいかない現実。
負のループを抜け出さんとする人のなんと非力なことよ!
平和を求めても結局は暴力と殺しに頼り押さえつけてしまうしかないジレンマ。
予期せぬカニバリズムに慄きつつ興奮する。
食うか食われるか。突き出せサムライ・マックス!
爺さんによる「なるべく生かして少しずつ食べる」という主人公食計画がすごく良かったので、あの唐突な中断は少しもったいなく思う。
普通なら上手いこと脱出するかなんとか期日を迎えるか管理者と対峙するか…とにかく外界へ向かうラストになりそうだけど、逆に内へ下へと入り込んでいくのが面白い。
次の世代へ未来を託す、なんとも絶妙な気持ちになるラスト。次の世代がさらなる地獄を見るかもしれないのに。
穴の仕組みは?施設としての役割は?管理者の狙いは?
ミハルは最下層までは行かなかったのか?
あの娘はあの後どうなるのか?
分からないことが気持ち悪さを増幅させる。
そこをツッコミ所とするのはあまりに無粋よね。
あの施設や閉じ込められた人間、働く人間の背景を想像するだけで楽しい。
どこの階層でどんな地獄が繰り広げられているのか。
通り過ぎる際に垣間見えるモノにゾクゾクする。
0階層でひたすらに料理を作る人たちがかなりプロフェッショナルな仕事ぶりを見せているのがまた面白い。
こんな非生産的な施設のために何を頑張っているのか…もしかして毎日一生懸命働いている我々への皮肉?いやだな、やめて頂戴。
どれだけ美しく美味しそうに盛り付けても、食い散らかされてどんどんグロテスクに荒れていく料理たち。
料理が大量に並ぶ様ってそもそも気持ち悪いよね。人間の食欲をデーンと見せつけられているようで。
バイキングとかもうあんまり行きたくな。
限られた富を意地汚く独占する上層、おこぼれすら手に入らない下層。現実世界をギュッと凝縮したような穴。
意味深なモチーフが多く、きっと色々な暗喩が込められているんだろうと思う。
深読みも楽しいけれど、物語そのものが面白くスリラーとして完成度が高い作品だった。
お行儀のカケラも無いし倫理的に終わってる部分が多く、人の醜い部分を剥き出しに見せてくれる、不愉快で影響の大きい映画。とても好き。
朝から何も食べていない状態で観たので、観賞後すごくお腹が空いたので上品な中華を頂いた。
お箸やレンゲがあるってなんて幸せなんだろうと思った。