「渋い名優陣と正統派人間ドラマに浸る」ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
渋い名優陣と正統派人間ドラマに浸る
いぶし銀の名優の共演に期待する気持ちに応えてくれる、見応えのある作品。
ベトナム戦争の激戦地で献身的な救護活動を行い、ヘリに戻らず地上戦に殉じた空軍の医療兵ピッツェンバーガー(ピッツ)。空軍省の若きエリート官僚ハフマンは、放置されていたピッツへの名誉勲章授与のための調査を、職務上仕方なく始めた。
彼はベトナム戦争後の生まれで、帰還兵達にとってピッツへの名誉勲章授与がどのような意味と重みを持つか、また長年の請求にも関わらず授与されないのは何故なのかを知らない。ピッツと戦闘を共にした退役軍人との出会いを重ねる中で戦場の残酷さや帰還兵の現状に触れ、彼らに心を寄せてゆくとともに、勲章の意義と授与を阻む冷たい壁の存在を知ることになる。
5人の名優が演じるピッツの父と帰還兵達の存在感と説得力はこの映画の核で、さすがの一言だ。
戦乱を生き延びた兵士の多くは戦場の混乱の中で犯したやむを得ない過ちや、生き残ったことへの罪悪感を終生背負う。ベトナム帰還兵の場合、反戦運動が盛んになっていた母国での不当な扱いも、彼らの病んだ心をさらに追い詰めた。
彼らが30数年背負ってきた苦しみと、それぞれ性格も心の傷への向き合い方も違う彼らをピッツの存在が繋いでいることが、一人一人の語りと回想シーンでの生々しい戦場の描写から伝わってきた。ピッツの勇気と献身が勲章により正当に評価されることが、残された彼らの苦しみを癒す唯一の方法であることも。
トラウマに苦しみ続ける男の狂気を体現したピーター・フォンダ、古き良きアメリカの父親を静かな威厳をたたえて演じたクリストファー・プラマーにとってはこれが遺作になった。改めて残念だ。
実話の方の顛末を知らなかったので終盤の解決シークエンスは駆け足な感じがあったが、ことが公になった後の展開は本国では周知の事実だからこれはこれでよいのだろう。
「The Last Full Measure(最後の全力)」の引用元であるリンカーンのゲティスバーグ演説は、南北戦争において自由と平等の国アメリカに命を捧げた戦没者の魂を受け継いでゆくことを呼びかけている。本作のサイトには、この短いスピーチの全文が英文と日本語訳で掲載されている。
崇高な理想を掲げた国の政治的決断のひとつが、約100年後に異国での戦争で生み出されるベトナム帰還兵に繋がっていると考えると、皮肉な気分にならなくもない。
ただ、ピッツが人を助けるという信念を持ち、最後までそれを貫いたことの尊さは「国への忠誠」への懐疑とは分けて考えるべき普遍的なものだ。その美しさは彼に助けられた人、彼に関わった人の心を動かし、ハフマンのようにピッツを知らない世代にも受け継がれてゆく。
「最後の全力」を尽くして癒されないトラウマを乗り越え当時を語った、老いた帰還兵達の思いもまた尊く、人間の弱さも強さも抱えたその姿にストレートな感動を覚えた。